辺境にて

南洋幻想の涯て

辺境にて 上

 ここ数日、日中は農業や林業で働き、夜間は12時まで校長室の床を紙やすりで擦るという暮らしをしている。床さえ完成すれば荷物を搬入し、ここへ移る事ができる。早く移って久方ぶりの独りの時間を満喫しよう。渡海時に知らず失った自分の時間。床を磨き続けて指に怪我や水ぶくれが出来たがこのコンクリート製の天の岩戸を閉ざせるなら些事に過ぎない。

 

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まだ廊下にも手前の部屋にも照明がない。

磨く。

 社交的な魔王はスュリの屋敷の庭にピザ窯など拵えパーティ会場にしている。当然人がたくさん来るし特に夏季などは宴会ばかりしている。魔王が勝手に宴会をする分には何も文句はない。だがそこに住んでいる以上結局顔を見せない訳にもいかない。

 準備と片付けを手伝い、宴会中も楽器の演奏を命ぜられたり雑用接待に忙しかった。子供がいれば子守りに逃げた。いつしかそれが専門になった。別に嫌いな人が居るわけでもないが強制的に参加させられる宴会など楽しいものではない。

 社交的な魔王とは対極的に私は内向的なので、縄張りを侵犯される動物のようにストレスを溜め続けた。内地で当たり前に保証されていた自分のプライベートな時間が恋しかった。

 

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一方自分のプライバシーには余り関心がない。

 

 残り3列。こんな事でも経験を積めば上達の余地は有るらしく、最初に3列で2時間かかっていたのが半分の時間で出来るようになった。

 

磨く。

 晩夏、ウセの魔王の宿の最奥の部屋へ移った。これで干渉されず静かに生活できると淡い期待を持っていた。だが魔王がほぼ毎日改修に来る。サグラダファミリアはいつまでも完成しないので私に安息の日は来ない。更に魔王は自分の大工仕事を見てもらいたがって人を頻繁に連れてくる。一応私に聞きはするが、私にあてがった部屋も観光コースに入る。見せる気が失せるように部屋は常に散らかしておくようにした。今度は檻に容れられて展示される動物だ。宴会の仕事にも依然召喚される。

 

磨き上げた。

 年明けに魔王と和解をし、自分の付き合いと私の付き合いも分けて考えてくれるようになった。廃校は、過干渉の老魔王に抵抗する為の軍事拠点から静かで穏やかな自分の世界に変貌を遂げる。

 

 自分の床を、手順に従い丁寧に塗装する。後は誰も立ち入らせずに乾燥を待つだけだ。誰も立ち入らせてはならない。

 


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蟹工船の次は蟹味噌みたいな色をしている。

 

 床が乾けば魔王に手伝ってもらって荷物を運び込もう。そして最初の客として魔王を招いて夕食を食べよう。彼はすぐに誰かを呼びたがるからよく伝えておかねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

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