辺境にて

南洋幻想の涯て

一月のプロレタリアート

 林業社長から聞いていた通り一月は日雇いの仕事が全然ない。本島側へわざわざ渡る用もないので今月は離島に引き籠っている。貯金もないので困窮してきた。ミシンなんて買っている場合ではなかった。独り立ちするのに要るからと電子レンジも買ったが温める食べ物が無い。

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 二週目に一日だけ仕事があった。行ってみれば社長の屋敷の庭の草刈りだった。そうまでして仕事を呉れるなんて良い人だ。

 仕事が無いものは仕方がないので午前中は校長室の荷解き片付け、午後からは農業か魔王宿の改修手伝いをして昼夜の食事にありついている。

 魔王は別に何も言わないがとても助かっており感謝しているに違いない。だからギブアンドテイクだ。ベンガル猫の後ろに並んで配給を待つ。

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彼女は間違いなく私を後輩猫と見做している。また時々ネズミの首を呉れる良きお姉様でもある。いらんけど。

 

 朝はあちこちで貰ったり生えていたりする果物やクッキーで凌いでいる。クッキーが生えているのではない。果物だ。クッキーも生えればいいのに。夜は魔王の手料理を胃袋に詰められるだけ詰めて廃校へ帰る。魔王は調理師の免許も所持しており料理が上手い。

 

 校長室寝室は片付いた。いつかベッドを置くつもりだが優先順位は低い。

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 ガス屋さんには入居の許可が出た時に直ぐ連絡した。料理をしたりシャワーを浴びられないととても生活できない為だ。しかし2週間に一度くらいしか離島側へ渡らないからまた今度と言う。そして今日が待ちに待ったその日だ。

 9時、プロパンガスが開通した。これでちゃんとした自炊も出来る。この家で食べるものと言ったらクッキーか果物、良くて卓上IHで作るインスタントラーメン程度なのでとても嬉しい。

 初日の朝の卵かけご飯はここで炊いたものではなく前夜卵と共にスュリから持ち込んだものだ。まだ電子レンジが届いていなかったので卵かけご飯は冷たくぼそぼそしていた。

 しかしガスは来たものの島にはスーパーが無いので食材は本島へ渡って買わなければならない。私には釣ったり狩ったりというスキルは無い。せいぜい採るぐらいだ。だがスーパーへ行くためだけに海を渡るのは少しもったいない。何か役場にでも用事があればついでに買って帰れるのに。


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 台所はまだほとんど手をつけていない。折角料理ができる様になったので優先的に荷解きしていこう。


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 ガス屋さんの帰った後とりあえずパスタを茹でた。集落の方の遺品で頂いたガスコンロは左の炉の配線が鼠に齧られており火が消える。

 空腹だったのでパスタは大量に茹でたがパスタソースが一人前しか無かった。たらこの香りはするのに味がほぼ無い。美味しくない。


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 水切りを発掘した。シンクが小さいので置く場所がない。足拭きマットを下に敷いて一応の解決をみた。ちゃんと洗濯をした物だがそれでも少し嫌な感じがする。


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 冷蔵庫を貰ってきた。電子レンジはその上に設置した。冷蔵庫の庫内からは変な臭いがするので開けておく。冷蔵庫に貼ったマグネットは数年前キーウを旅した時に購入した物だ。新品レンジはレトロでかわいい。早く使ってみたい。


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 炊飯器を置く場所は、キッチンワゴンが冷蔵庫の横にぴったりだったので、扉は開かなくなるがここに置くことにした。もうワゴンの用を成さないが彼には妥協して貰おう。肝心の炊飯器は現在行方不明である。

 

 一方風呂は。


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 あまりに汚く触りたくない。バスタブの底で月面探査機みたいな虫が歩き回っている。スュリの方へ毎日手伝いに行っているのでしばらくは屋敷のシャワーを借りよう。ここを掃除するには心の準備が必要だ。

 

 昼前になったのでスュリへ魔王手伝いに行く。

 

 マンゴーに炭疽病の予防薬を撒いた。撒いて良い薬の種類は厳密に決められておりいい加減なことをすれば出荷が出来ない。また農薬は高価なため本当に必要な最低限しか撒いていない。品質を上げるためには薬ではなくサトウキビの搾りかすやマグロの堆肥などツテで安価で手に入ったり無料で頂けたりする有機物を利用している。何となくイメージも良い。

 だから残留農薬という点においてここで作っている果物は安全だが問題は今密室内で散布中の私である。簡単なマスクしか持っていないので各種農薬を散布するたび相当量吸い込んで健康寿命を縮めているのではないか。農薬イコール悪のイメージが付き纏う現代では、メーカー側も安全性には神経質になって薬を開発している事とは思うが、それでもお金に余裕が出て来たら専用のしっかりとしたマスクが欲しい。


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虹を作って遊ぶ。楽しい時間と引き換えに寿命は一週間ほど減る。

 

 校長室の電灯や椅子は魔王宿からの借り物なのでいずれ返さなければならない。冬の現金収入の為にスュリの土地に自分のタンカンでも植えようか。