辺境にて

南洋幻想の涯て

チェーンソーデビュー

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 マンゴーは花が来たので受粉の為の蝿を湧かせている。今年は花が少ないので不作かもしれないそうだ。去年あらゆる人に実を成らせ過ぎだと言われたが魔王は人の意見など聞かない。

 まあ農業はいつ聞いても利益はほぼゼロだと答えるので、昔から園芸の好きだった彼の半ば趣味のようなものだ。区長手当や各種役員報酬で暮らしているとの事だから別に心配はない。

 いつか畑を引き継いだ時、植物にさして興味がない私の方が案外上手くやるかもしれない。拘りがない分素直だからだ。その代わり工夫からの発明は無いが。

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 農業は依然よく解らないが、日雇いで始めた林業の方は着実に成長している。休日、山賊のお頭の土地の木を切るのを手伝いチェーンソーデビューを果たした。

 仕事では資格が無いと扱えないので興味はあっても触る機会はなかった。しかし私有地で個人的に使う分には資格は不要である。だからちょっと練習するのには良い機会だ。

 ところがお頭はエンジンのかけ方だけ教えてさっさと奥へ入ってしまった。正しい姿勢や注意すべき事など次々と疑問が湧く。質問に行こうと勝手口を開けた。しかし現在のレベルで踏破可能なダンジョンではないと判断し引き返した。

 仕方なくこの日はこれまで見てきた記憶を基に恐々と木を切った。怖くて体から離して持っていた為左腕がパンパンになった。

 

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もう少しレベルを上げてから来よう。

 

 皆がするのを見ていたから知っていたが燃料とは別の給油口からオイルも入れなければならない。

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 燃料はAから、刃の為のオイルはBから別々に給油する。オイルは一斗缶から直接注げと無茶をいう。相当量こぼれますと言ったがお頭は細かい事は意に介さない。仕事をしたのに何故か赤字になったりするそうだが理由が見えてきた。地面にオイルの染みを作りながら給油をした。

 

 兎に角これで主だったエンジン付きは一通り扱える様になった。

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 ここに写っているものは全て装備可能だ。チェーンソーはなるべく早く資格を取りに行こう。

 

 よく手伝ったから今度は牛を食べさせてくれるそうで楽しみである。

 

 夜、YouTubeでチェーンソーの正しい使い方を勉強した。私やお頭と違い動画の人はフルアーマーだった。

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 中性浮力みたいなテンションの赤いロックマンのいう事を繰り返し熱心に聴いた。今日特に怖かった、たまにチェーンソーが跳ね上がる現象をキックバックと言う事が解った。ヘルメットぐらい買うべきだと思ったがお金がない。

 静かな波の音はコンクリートを挟んだ向こう、真夜中の海のしじまへと意識を連れて行く。気が付けば眠っていた。

 

 翌朝。今日は仕事だからチェーンソーは使用できない。だから別に不要なのだが、前回までの林業社長が呉れたチャップス(下肢防護服)と地下足袋を思い出しとりあえず装備して行く。

 林業社長からも仕事をとれたと電話があったがもうこっちの仕事を受けているので断った。少し悪い事をしたように思った。あと1週間早ければ。

 今では親切で安全にも気をつけてくれた林業社長達が天使の様に思える。お頭は不親切と言うよりは自分にも他人にも無頓着なだけだが。会社と個人(個人事業主とかでもない)の差だろうか。

 大雑把なお頭の手下でいるのも楽しくて悪くは無い。何より焼肉もたくさん食べられるし昼食もほぼ毎日奢ってくれる。

 だがしかしこれまでの社長だって仕事を教えてくれたしそれに本島側では色々ご馳走してくれた。弁当のおかずも毎回の様に分けてくれるので昼はわざと近くに座っている。

 つまりどちらもふんだんに食べ物を呉れる。もうどちらと仕事をすれば良いかわからなくなってきた。困った。

 

 

 

 装備品はどれも高価で手が出ない。また色々検索していて知ったのだが公的な名称は ×チェーンソー ○チェンソー だった。