辺境にて

南洋幻想の涯て

野焼き、偽物の免許証

 12月の校庭管理の代金が振り込まれた。1月どころか3月ぐらいまでは仕事があまり無いそうなので貴重な収入だ。他には消防団の訓練に参加するぐらいしか現金を得る手段がない。消防団に入ったものの私は火をつける方が好きである。椅子まで用意していつまでも眺めてしまう。

 もちろん無法な行いをしているわけでは無い。農業をすると出る残渣などを燃やすのだ。いつまでも炎を眺めている私に魔王は原始時代の人類が火に助けられた本能だろうという。魔王だけあって長生きしている様だ。

 

 ところで校庭管理で刈った大量の草は校庭の隅に積み上げている。先代からそう引き継いだからだ。さらに昔は三度ぐらいに分けて燃やしていたそうだ。壮観だろうが危険極まりない。

 私も先代を踏襲して校庭の隅に堆積させていくつもりでいたが、校庭管理としてそれで良いのだろうかと疑問を持ち始めた。困った事に私は生真面目なのだ。生真面目を指摘された時にしばらく不真面目な振る舞いを試た程病は深刻だ。

 

f:id:Chitala:20230203122601j:image

区長曰く先代はこの中に洗濯機を埋めて行ったらしい。不真面目だ。私もかくありたい。

 

 それがいつかはわからないが、堆積させ続ければいずれ校庭は枯草に埋もれてしまう。草の山は暇な時に少量ずつ焼く事にした。そして真面目だからそれが違法行為にあたらないか町のHPで野焼きについて調べた。

 

農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却
 例:農業者が行う稲わら等の焼却
   林業者が行う伐採した木の枝等の焼却

 

 と記載されていたので問題はないようだ。私は農業と林業に片足づつ突っ込んでいるのでむしろ野焼きは奨励されていると解釈しても良いだろう。

f:id:Chitala:20230129144817j:image
f:id:Chitala:20230129144736j:image

 早速校長室の庭っぽい所で燃やしてみたが建物から近すぎる。また海辺で風が読めず良くない。
f:id:Chitala:20230129144802j:image
f:id:Chitala:20230129144756j:image

 いつか去った移住者が魔王屋敷に置いて行ったケバブシシカバブかを焼くドラム缶を思い出して運び込んだ。

f:id:Chitala:20230129144810j:image
f:id:Chitala:20230129144744j:image

 あまり火が見えないのが不満だが安全性は高そうだ。上に網を置いて焼き肉でもできないだろうか。

 

 火を眺めていると郵便屋さんが来た。コンセントに挿すだけのインターネット回線を申し込んだのでその書類だ。免許証のコピーが必要とあるので午後は海を渡ってコンビニへ行こう。ちょうど食料品も無くなってきたところでスーパーにも行きたかった。

 

 船を降り本島側のファミリーマートに行く。大手コンビニは行動範囲内でここぐらいしかない。ローソンに至っては島中探しても一軒もない。ついでに飲食チェーンも有るのはジョイフルぐらいだ。牛丼チェーン店もカレーチェーン店も無い。ケンタッキーが一度進出してきたそうだが今はもう無い。

 だからここに踏みとどまってくれているジョイフルは稀有な存在でありそれはバス停にジョイフル前と名前がつくぐらいである。ともすれば国営の食堂ぐらいに思っている人がいてもおかしく無い。

 そうした大手チェーンの類が無い代わり個人の食堂に酒場、弁当屋ならそこかしこに有る。それはそれで個性があって楽しい。

 そして私の住む離島側はさらに店も少なくなりチェーン店など郵便局と交番ぐらいだ。カツ丼ぐらいなら出すかもしれない。

 

 コンビニに入り免許証のコピーをとる。コピー機の上に、コピーをとったのちに忘れていったであろう請求書の原本がある。数十万円の金額が書かれ判子が撞いてあるそれを店員さんに渡した。こんな大事な物を忘れるなんてうっかりした人がいるものだ。

 

 コンビニを後にしてスーパーへ入る。本島へ渡るならついでにと、魔王から2000円を渡されている。これで納豆を買えるだけ頼むと言われている。20個もいるのかと確認したのだが2000円でそんなに買えるわけがないと言って聞かなかった。普段の買い物の時全く値段を気にしていないらしい。呆れたので黙って20個買ってくることにした。

 88円のを4種類、計20個カゴに入れるともう自分の買い物はほぼ出来ない。私はバイクしか所有していないから背負ったバックパックと、あとは首から下げるエコバックに入る分までしか一度に運べない。魔王の納豆のせいで自分の為にはバタークッキーにチョコチップクッキーとチョコパイ、あとは調味料類少々しか買えなかった。おかずもせめて三日分は必要だったがもう持ちきれない為諦めた。甚だ迷惑である。

 

 離島に帰り、魔王屋敷に寄ったがまた飽きもせず宿で大工をしているようで不在だった。テーブルのポーク缶とリンゴと他おかずになりそうなものを駄賃がわりに貰っておいた。

f:id:Chitala:20230207123431j:image

 

 数日後、山の現場で仕事をしていると警察署から私の免許が拾われていると電話が来た。先日コピーをした時にコピー機にそのまま忘れてきたようだ。数日間免許の無いまま運転をしていた事を知り青ざめた。仕事終わりに日雇い仲間に送ってもらい、慌ててとりに行った。

 財布の免許入れにふざけて偽免許証を入れているので違和感がなく、電話があるまで紛失していたことにさえ気がつかなかった。うっかりしている。

 

f:id:Chitala:20230209112436j:image