生活
裏口から出ると暗くてもう海は見えない。見えない海が音だけでその存在を主張する。壁伝いに左へ。構造物が複雑に入り組んでおり溝に足を取られつまずく。 ドゥリンの宿はやけに広い。いちいち屋外に出てダンジョンを攻略しないとトイレにも行けない。帰りは…
「オーィ!」 向こうの尾根から仲間の声が聞こえる。 「帰るぞー!」 「はーい降りまーす!」 今度は私がサクを挟んだ向こうに居る別の仲間に呼びかける。 「終わりー!オーィ!帰るよー!」 サクの向こうのチェンソーは鳴り止まない。「狂気のK」はいつもこ…
永遠に眠る伽藍堂の無機質な明かりで窓外の黎明は墨のようだ。 この空虚の中には私しかいなかった。弟の所までここから30駅以上もの長旅になる。夜でも朝でもない黎明の中で妹の持たせてくれたおにぎりがまだ温かかった。
私は、両親離婚時に祖父母宅へ行くという第3の道を捻出したほどには両親が好きではない。それを隠してもいないが当人たちには多分伝わっていない。別にそれぞれ悪人だとかではなく、幼いわがままさや卑怯さを感じてどうも好きになるのが難しい。 そんな子の…
その夜は寒さで目が覚めた。肩や膝小僧に手を当てるとひんやり冷たい。シーツに包まるだけではもうだめだ。 嵐の去った日、気温が下がって涼しくなった。未練たらしい蝉もどこかへ吹き飛んだ。ようやく夏が終わった。ところが風はそれからも強いままだった。…
雨戸の外はこれからの運命を暗示する暴風雨、それから防波堤を不定期に叩く波濤の轟音。 今から国際特殊詐欺の容疑者として逮捕される私にはおあつらえ向き、皮肉の効いた素晴らしい天気だ。 身なりを整え、三日分の着替えを準備し、離島の交番へ出頭する。…
ハンドルの脇に、覚えなければならない呪文を貼った。 最近は軽トラで出勤している。チェンソーなどの仕事道具を運ぶためだ。新しい現場はこの離島内、デイゴの集落の山である。 中々の広範囲で、年内は食いっぱぐれがないだろう。だから本島の事務所に預け…
冷蔵庫からハイボールの缶を出し、氷を入れたジョッキに注ぐ。氷を入れすぎたのか、缶のハイボールは中途半端に余ってしまった。どうしたら良いのかわからないので、ジョッキと一緒にハイボールの缶も渡した。 常連は「え?良いの?」と言った。何か間違いが…
私の革製品は、デイゴの集落の「かなめちゃん」と言う飲食店に置いてもらえることになった。同集落のトラボルタの口利きである。トラボルタはいいヤツだ。親切にしよう。 早速宣伝用のサンプル、カードケースを作って置かせてもらった。中には「辺境雑貨店」…
梅雨はあけても亜熱帯である。これから冬までは雨の日も多い。林業は雨天休日なので日当制の私は月収が低下する。 雑貨店ではなんと貝が売れた。また珍しいヤツは拾っておこう。一方の主力商品である蛇革は売れない。今のところ出て行ったのはたった一枚だけ…
突然だが、当「辺境の日誌」は次の年度末で終わりになった。 最近、役場から一通の封筒が届いた。そこには、私の住んでいる校長室の管轄が教育委員会から総務課に変わると言う事、それに伴ってもう賃貸としての運用は辞めるという事が書かれていた。 学校は…
私は個人事業主になった。仕事はまだない。仕事ばかりか自分の業種が何なのかとんと見当がつかぬ。
夕方。山仕事を終え離島の廃校へ帰校した。郵便箱の蓋が閉まっている。何か配達されたのだ。蓋を開けるとダンボール箱が届いている。取り出して校長室玄関に置き、とりあえずシャワーを浴びる。身体にマダニが居ないかよく点検する。届いているのはきっと住…
3月30日は3月3日だった。3月3日はイザリをしなければカラスになる。だから出かけた。海は干上がっていた。 カラスになってから慌ててイザリをする人たち。だがもう手遅れである。 トラボルタのガギを一本借りた。ガギは、歯医者の持っている「フックのついた…
注意:この記事にはグロテスクな写真があります。
伐採の仕事が終わり、私はまた山の間伐仕事に帰った…のも束の間、雨雲の一団が隊列を組み離島の上を通過し、山の仕事はできない。だから離島内サジョウホ集落の製糖工場を手伝いに行った。体を動かし同僚との会話もある、そういう仕事が私には向いているよう…
さて、この新潟旅行だが綿密に計画を立てる妹のおかげで障りなく楽しめた。だが、何の問題もなかったのでそんなに書く事がない。だから駆け足で記す。それにこんなペースでは夏になってもまだ冬の出来事を書いていそうだ。もう廃校に帰って2ヶ月経つ。少し急…
大阪の母宅で年を越す。と言っても母たちはさっさと寝てしまって起きているのは私と妹だけだ。我々も何か特別な事をしているわけではなく、普段通りにゲームやアニメだ。 何かシュールなゲームをした。
12月30日、風邪、治りつつあり。インフルエンザだったのかも知れないが、夜間診療を受診したため検査ができず不明なままだ。今日は母からのプレゼントで岡山の湯原という所へ一泊旅行へ行く。母、母の夫、祖母、シーズーはペットホテルに、私と妹は近くの温…
新歌舞伎座の前で本を読みながら妹を待つ。留守番の犬の気持ち。去年の今頃と同じ。賑やかな雑踏と排気ガスの匂い、鼻にツンとくる冷たい空気も懐かしく居心地が良い。 もう着く、とラインが来た。キリの良い所まで読んだ本をパタンと閉じる。文字の海が人の…
罠を仕掛けた。だがシシは山でドングリを食べているらしく、最近は里へ降りてこない。罠にさっぱり掛からない。シシ肉にはしばらくありつけそうにない。マガンの罠も仕掛けてみたがこちらもダメだ。 落とし穴を仕掛けた帰りに脱輪した。
今夜は「アクトクを盛り上げる会予行演習」なのだそうだ。この会は今から少し前、山賊のお頭の突然の思いつきで始まった。 それを聞かされた時は宴会をたいそうに言い換えたのだと思った。つまり冗談だろう。ただの乱痴気騒ぎに立派な名を付けましたね、と感…
区長から、そういやあんた集落作業後に泳ぐと言ってたが泳いだんか?と聞かれた。 ──朝の集落作業中、終わったら海に飛び込む、と、私は区長に言ったのだ。またその時、 前回一緒に泳いだ集落の少年が来ていないことに気がついた。
仕事中に小さな灯台を発見した。 滝の集落のMさん、トラボルタと夜釣りに行く。自分だけ何故か釣れない。道具のせいにして竿を交換してもらったがやはり釣れない。場所のせいにして代わってもらったがそれでも釣れない。やる気を失くして桟橋に寝転がる。遠…
校舎Cの屋上に上り校庭を見下ろす。ミステリーサークルが出現している。 役場に報告するため写真に納めた。
雑貨店を開店したものの何も売れない。案外、遺品や動物の角には需要が無いものらしい。次に海を渡ったら100均でカチューシャでも買ってきて、頭から角を生やせるようにしてみてはどうだろうか。あるいは角笛──
どの地方でも似た様なものだと思うが、猟師が高齢化でどんどん引退している。一方新たに猟師になる人は少ない。猟師の数、いや人間の数自体が減る一方だから、シシは昼間でも集落内に入って好き放題にしている。
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その過剰な忠実さと友情の押し売り、盲目的な連帯への信仰が、クモの糸のように主人公を窒息させてしまうのだ。「友達」たちは、終始、犠牲者の立場をよそおいながら、そして主人公は、あたかも加害者の立場に立ちながら、結果はまったく逆になってしまうの…
台風の影響は1日だけだった。その引き篭もった1日でネット上の雑貨店について真面目に考えた。