辺境にて

南洋幻想の涯て

続 タンカン

 ドラゴン周辺の雑草を刈って欲しいと魔王に頼まれたのでスュリの屋敷に来た。屋敷の裏の方から掃除機のような音が聞こえる。亡き祖父が植えたタンカンの木の方角だ。


樹上の魔王(保護色)から私へと渡されるタンカンの実

 祖父が亡くなった時、その木の下で葬儀をした事など魔王には珍しくしんみりと語っていた大切なタンカン
 殆ど語られる事はないが、魔王とその父の間にも色々なことが有っただろう。屋敷が見守ってきた代々の人物に思いを馳せ裏へ周る。






 掃除機のような音は電気のチェーンソーだった。山仕事で普段聞き慣れているエンジン式の音とは違い…いや、そんな事より魔王が何故か大事なタンカンの木を切っている。
 驚いている私に、隣に生えているアボカドの木に防風ネットをつけるのに邪魔だから切ったと言う。4本の内の一本を切っただけだがどんなスプラッター映画より衝撃的だった。おかしくなったのかと思った。

 まあ私もアボカドを安定して食べたかったので手伝った。お前の祖父は寛容で穏やかであったから笑って許すだろうと魔王は言う。そしてそこに転がってるプラケースの上に塩が盛ってあるから祟りを回避するために嘗めろと言う。更にタンカンの木にも塩を撒いておいたらしい。
 寛容な祖父とは…。


祖父の祟り対策。許しを乞うより祓ってしまおう。祖父は多分天国でイラッとしている。

 タンカンがひと段落し、脇に植えてある曲がった木に目を向ける。柿の木だそうだ。気候が合わないのかこれまでに一度しか実を付けなかったらしい。そしてその実を成らせた、たった一度というのが祖父の亡くなった年の冬であったそうだ。柿の好きな魔王を慰める為に実を付けたのだろうか。


大切な柿の木

 悲しいその冬の日の庭を想っていると魔王が呟いた。ここにもライチを植えたい。
 柿の実はあるいは天国の祖父から息子への最後の、あ…








行ったー!

 流石に考え直して貰い柿の木は剪定で短くするのに留まったが、その後も魔王はチェーンソーで周囲の木を切りまくった。後日燃やす為、切った木は畑の何も植えていないところへ積んでいく。

 柿の木は気の毒な姿になった。ちなみに手前でこの上無い目に遭っているのが祖父のタンカン、奥はライチで魔王の寵愛を受け青々と繁茂している。


隠れて実っていたアボカドをみつけた。

 夕方、仏壇に線香をあげるときに気がついたが、今日は祖父の月命日だ。




 もう祟られる気しかしない。