辺境にて

南洋幻想の涯て

籠城コンサート

注意:この記事には虫がたくさん出てきます。写真はありません。

 とっくに梅雨入りしたのに全然雨が降らない。梅雨入りで変わった事といえばゴキブリが出るようになった事だ。

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ヤマモモが実を付けている。最高である。赤く酸っぱいぐらいが美味しい。

 

 はじめにゴキブリに気が付いたのは就寝時、寝室だ。電気が消えていると本は読めないのにゴキブリには何故か気がつく。彼らは暗い部屋の中でなお黒すぎるのだろうか?

 視線を外さずエコーに電気を点けてもらい、箒で叩き殺し掃除機で吸い取った。

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ヤマモモが好きすぎて壁紙にしてしまった。

 

 翌日は、ゴキブリが校長室へ入らないようあちこち閉めて仕事へ行った。そしてその夜、就寝時に何と無く気にかかったので廊下に出てみた。するとまた1匹のゴキブリが居た。愛想よく触覚を振って挨拶をしている。箒で叩いて掃除機で吸い取った。

 しばらく後にまた気になり廊下に出るとやはりゴキブリが居る。叩いて吸う。サイズは大きいが逃げ足の遅い彼らはワモンゴキブリという種類らしい。ゴキブリにも正常性バイアスがあるのかすぐには逃げようとしない。

 掃除機を構えてゆっくりと近づき「突き」の動作でほぼ確実に仕留められるようになった。つまりは叩くアクションが不要になった。

 この夜は10匹以上は吸ったと思う。中には交尾に夢中で2匹まとめて吸われるのも居た。

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これは何だかわからないが皮を剥けば食べられる。少し水分を含んだスポンジといった感じで少しも美味しくない。

 

 林業休憩中にその話をした。ゴキブリは湿度が高い環境が好きだから逆に換気をすべきだと教えて貰った。それと、掃除機で吸ったぐらいでは気絶するだけでまた出てくるそうだ。後半は同じ奴と戦い続けていたのかもしれない。アマゾンで毒餌を注文したが辺境だからしばらくは届かない。


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「何だかわからない実」が何なのか魔王に聞いた。赤くて無味だけでは判らん、と言うのでわざわざ現物を取りに行った。イチジクの原種か何かだろうと言った。つまり何だかわかっていない様だ。

 

 それから2日程、毎晩2、3匹のゴキブリを叩いては吸い込んだ。何だか掃除機の排気が臭い。どうやらゴキブリの死骸というのは臭うものであるらしい。

 「ゴキブリはエビみたいな味である」というのはよく聞く話だが、排気は傷んだエビの臭いに似ている。翌朝掃除機の紙パックを外して校長室前のドラム缶で燃やした。紙パックの中は覗かないでおいた。

 

 台風が近づいているので日雇いは休みになった。スュリのマンゴーの台風対策をした。それから、近隣見回りの名目で首尾よく魔王の彼女?の所へ連れて行かれた。

 来たからには仕方がない。彼女?の台風対策も手伝った。まあ彼女?は良い人だからいいか。お礼として時計草の実を貰った。

 日が暮れる前に廃校へ帰り、校長室も台風対策をした。といっても雨戸を閉め、土下ろしをするだけである。


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 屋上にはひっきりなしに松葉が落ち、やがて排水口を塞いでしまう。そのまま雨が降れば水が溜まり、防水シールの破れから天井に染み込む。それがこの間の雨漏りの原因だった。

 初めて登った時は松葉が分解され土になっており、そこにアダンが生えていた。このアダンの根が排水口への隙間を作って雨漏りを防いでくれていたのだ。そうとも知らずに抜いてしまった。

 今は二週間に一度はこの土下ろしをしている。金属の角スコップでは屋上の防水シールに傷がつくので、プラスチックのものをネットで探し購入した。本来は雪かき用らしい。

 屋上の土かき、または土下ろしを終え下に降りると大きなアシダカグモが居た。これが一匹校長室に居ればゴキブリは全滅するのにな。と思ったので捕まえようとしたが逃げられた。心の中で、今夜から是非お越し下さいと念じて雨戸を閉めてまわり、校長室に帰った。

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 ドアを開けると廊下にゴキブリが2匹並んで居て、触覚をコンサートの観客の様に機嫌よく振っている。何か伝えたい事でもあるのでは、という気すらしてきた。風は強まり、雨も降ってきた。

 彼らとの籠城が始まる。楽器でも弾いてあげようか。

 

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校舎の裏にスモモの木を見つけた。