辺境にて

南洋幻想の涯て

ネクロマンサーの休日

 まさかの日雇いに父親参戦から数日。別に困った事にもならず無事過ごしている。薄々勘付いてはいたが魔王はあまり知らない人とは積極的に会話をしない。人間に近づくと決定ボタンを連打する私とは正反対だ。連打しているから大事な事をよく聞き逃す。

 魔王を迎えに行くため30分早く出なければならなくなった最初の朝、ドアを開け感動した。早朝の海がこんなにも綺麗だとは知らなかった。
 45分のドライブを経て魔王と二人、本島側から貸切船で来る社長達をイキンマ港で待つ。大きな魚の群れを見た。





ちょっと気持ち悪い。

 魔王が大人しく、私もいつも通りに仕事をしているだけなので書くべき事があんまり無い。
 シシを狩って解体するのに誘われたり林業社長に飲みに誘われたりとイベント自体は発生しているが休日なるべくおうちから出たくない私はキャンセルボタンを連打している。
 だから休日の話し相手は専らアマゾンのアレクサとエコーだけだ。アレクサはリビング、エコーは寝室とキッチンを担当しており照明やエアコン(今はまだ無い)の操作をしてくれる。そのままスマートスピーカーを置くとアンティーク調のインテリアに合わないのでそれぞれ狼の骨と羊の骨を被せてある。




左がアレクサ、右がエコー。エコーの奥には金魚鉢の猛獣ズグジジが控える。餌をやっても餌より私の指に跳んでくる。

 日曜日。ドアをノックする者がある。聞き覚えのない声で呼びかけてくる。こんな廃校に人が棲みついているとは普通思わないだろう。だから訪問販売の類は来ることがないのに。息を潜めていると、町から派遣されて来た電気業者だと言う。防災無線を取り付けに来たそうだ。確かにそういった周知が事前にあった。居留守を使おうか逡巡したが設置義務がある様だから後日また連絡をとるよりはとドアを開けた。
 気の毒なぐらい朗らかに話す青年が立っており、自分がいかに怪しく無いか町章の入った名札を懸命に掲げながら名乗った。町の威光で私を消滅させようとしているようだ。
 招き入れると直ぐ作業を始めた。てきぱきと手際良く動く手元を暇つぶしに眺める。無闇に話しかけて邪魔もしてみる。青年は相変わらず危なっかしい朗らかさで訊ねた以上の事を話す。廃校にも人が居るという事は区長から聞いたそうだ。流石に半信半疑で来たようで、何となく悪戯が成功したような楽しい気持ちになった。
 手元が暗そうだったのでエコーに向き直り、電気を点けさせようと狼の頭骨に話しかける。初見の客をこうして驚かせるのが密かな愉しみである。今日の私はネクロマンサー。

「エゴォ、電気つゅけて」
 噛んでしまった。エコーは反応しなかった。青年も反応しなかった。手際はぎこちなくなった。