辺境にて

南洋幻想の涯て

貝を貰う

 昼休みは旧軍の廃墟の近くでとった。弁当を食べ終わり潮の引いた浜で野焼きをしていると一番無口な幹部が鋸を持って海の方へ歩いて行った。貝を拾うらしいので私も後に続いた。

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 蛸でも落ちていないか足元をよく見て岩の上を歩く。最近日雇い人足の集まりが悪いらしい。私は足下の観察が忙しく適当に相槌を打つ。人手不足なら相対的に私の価値が上がるので結構な事だ。

 明日からあんたのお父ちゃんが来るからね。と言う。顔をあげ目を見開いて幹部を凝視すると貝を欲しがっていると思われたらしくトコブシ2つとブツ貝も一つくれた。貝どころでは無い。明日からこの現場が終わるまで毎日父親参観。少しも結構ではない。

 


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でも貰った貝は弁当箱に入れて持って帰る。

 

 こうして最悪なことに林業社長と魔王(私の父、いわば農業社長)に挟まれて日雇いをするハードモードに突入した。聖域の神様、私が何をしたというのですか?石碑の上に座って飲酒をした件ですか?

 明日からラーメン修行の旅に出るので休みますと言ったが却下された。パティシエ修行もダメだった。新婚旅行は相手がいなかった。

 たまに雨や人数不足で日雇いが休みになっても魔王には言わず(言えば宿か畑で無償労働が待っている)廃校でごろごろしていたのがバレるかもしれない。また休憩中などに魔王の事を面白おかしく語っていたのが耳に入るかもしれない。

 うまく皆の話題をコントロールしなければ。もう仕事どころではない。癖のある両社長の間で器用に空気を読みまくって上手く立ち回らなければならない。

 

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危機が迫っているがトコブシをバター焼きにする。コンロが汚い。

 

 空気を読むの空気は空気と表現されているが中学理科の知識でも分かる通りあんなに人を息苦しくさせるものは空気では断じて無い。酸素か窒素か知らないが有無を言わせない単一的な元素だ。空気は色々な気体の混合物であるべきでだからこそ我々の呼吸に有用で、一色に染められ呼吸もままならないそれは、いやそんな事はどうでも良い兎に角大変面倒な事になった。私は一番下っ端だが皆に発破をかけてこの離島側の現場を一日でも早く終わらせよう。そして休憩中はなるべく大人しくしていよう。

 


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危機が迫っていてもブツ貝は廃校前の海水を汲み煮る。

 

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 私も貝になるしか無い。