辺境にて

南洋幻想の涯て

面会 下

 2日目の昼食後、妹は手銛で魚を突きたいと言い出した。私は海に入りたくなかったのだが、一緒に行こうと言うので仕方なくついて行った。


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 私は魚の突き方など分からないので魔王が教える。そもそも海に入るのがこちらへ移住してから初めてだ。

 妹の手銛はおもちゃの様なもので、すぐにゴムが切れてしまった。魔王は1人沖の方へ行ってしまったので私と妹は珊瑚礁を遊泳した。私は魔除けになる貝を拾った。


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 夕食は魔王が1人で頑張ったイェラブチや小さいハタの様な魚などを刺身にして食べた。魔除けの貝は中身を腐らせるために縦向きに木に吊るしておく。

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 この向きでなければ腐った身が貝の奥の方へ流れ込んでしまいいつまでも臭い。一週間か二週間か、中身が腐り落ち綺麗になくなれば紐をつけて魔除けの完成だ。

 やはり海水は私には刺激が強く蕁麻疹がでた。ヒリヒリと痛くて痒い。太陽も海もダメだから本当に南洋の島なんて不向きだ。

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 夜から翌午前中は相変わらず廃校でゲームとアニメだ。

 3日目、妹の最終日。昼前に魔王から電話が来た。ニッシャムロの豊年祭に行くからすぐ来いと言う。私も妹も行きたくないと言ったが老魔王は聞かない。少しだけ行ってうまい口実を見つけて抜けようと妹と決めた。

 ニッシャムロには特に知り合いもなくあまり行く事がない。それでも魔王が無理に連れて行くのは魔王の彼女がいるからだろうと言うのが私と妹の見解である。

 魔王を拾いニッシャムロに到着した。相撲をとるらしく褌の一団がいる。褌をした人を生で見るのは初めてだ。何となく面白そうな気もする。これが妹のいない普通の日なら、イベント好きの私は喜んでみていたのだが。

 妹がいつ抜けようかと耳うちをした。私はタイミングをはかる。魔王の彼女は忙しく立ち回り魔王の相手どころではない。

 後ろの席の一団が魔王に話しかけた。同級生なのだそうだ。ここに何とか魔王を引き取ってもらおう。帰りは彼女に送って貰えば良い。

 ところが魔王は同級生の輪に入って行かない。外ではシャイで大人しいと知っていたがここまでとは。始まって一時間ほどして魔王も我々が嫌々来ているのを察したのか帰って良いと言った。魔王も一緒に帰ると言う。

 もしかすると一緒に観る人が居ないので我々を無理に連れてきたのかもしれない。以前もイキョオで同じ様な事があった。少しは可哀想に思ったが、妹と今度いつ会えるかわからないので、ここに一日中座っているわけにもいかない。帰った。

 

 妹が、せっかく来たのだからもう一回ぐらい海に入ると言う。私は浜で見ていれば良いと言われたが、妹といる時ぐらいしか海に入ることはないだろう、一緒に泳いだ。一時間程泳ぎ、廃校で夕食まで遊んだ。廃校探検をする。


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 夜、妹がハブ捕りに行きたいと言うので魔王と3人で出かけた。運転は魔王だ。

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 林道を、下へと意識を傾け徐行して進む。ハブは、伐採の日雇い中時々遭遇する。社長は棒で首根っこを押さえて手で捕まえ、小さいものはペットボトルへ、大きければズダ袋などへ入れてしまう。幹部達からは真似するなよと言われているが出来そうにない。屋内ではスリッパで捕まえるそうだ。とても真似できない。

 一度マッタブを見たきりでアクトクの林道へ差し掛かった。林道の中腹、突然計器類にたくさんの赤ランプが点り車が停まってしまった。

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 車を休ませようとエンジンを切る。辺りの山は生物の気配が濃密な闇そのものである。空の星々は輝きを増す。妹は、明日帰れない可能性が僅かに出てきたのに面白がっている。呑気だ。夜の山も賑やかである。やがては濃密な闇そのものに何か原始的な生命が宿っている様にも感じられ始めた。

 こんな電波も通じない所で待っていても仕方がない。今、車は峠の頂上へ向かい登っていた。何とか車を反転できればあとは重力が麓のアクトク付近まで連れて行ってくれる。電波さえ通じればどうにかなる。

 私が車を降り、狭い林道の、なんとか切り返しができそうな地点を見つけ誘導する。魔王は運転が上手いのでこういう時は頼りになる。ガードレールもろくにない崖っぷちの狭い林道を、慣性を使いバックで切り返せる地点まで戻る。

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 あとは私と妹で車を押し、魔王がハンドルを切り、何とか頭を下の方へ向けた。あとは慣性で峠を下った。

 魔王は水が入っていないのでは無いかと推測した。林道の麓で、エンジンが再始動したので水を求めてアクトクの自動販売機付近まで走った。


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 水を買って車へ戻ったが、魔王は水は満タンに入っていると言う。水タンクを照らしてみると、MAXの線がタンクの下から3〜4割の辺りに引いてあった。そして水はタンクの首まで入っている。つまり水はかなりの入れ過ぎだ。

 今は車が動く様だから急いでスュリへと帰った。

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 ポンプで水を抜きながら、魔王は最近この車を修理に出した車屋さんを疑い始めた。しかしプロがそんなヘマをするだろうか。

 私は車に水を入れるなんてこの時まで知らなかった為、当然加水などした事がない。魔王は減った水を入れる事を知っており、かつMAX線がそんなに下にある事を知らなかった。つまり犯人は魔王で、自分でした事を忘れているのだと思うが黙っておいた。

 魔王は娘に対し少し名残惜しかったのか、珍しくもう一回行くかと聞いた。しかしもうそれなりの時間だったのと、車がまた止まれば大変だから帰る事にした。

 最後の夜、寝て起きればお別れだから徹夜で遊ぼうとしたが、遊び疲れからそうは出来なかった。一時間ほど仮眠をとるなど抵抗を試みたが無駄だった。電気を消してもしばらく話は続いた。気がつけば眠っていた。

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見送りのベンガル嬢。

 翌朝、最後の別れが来た。船をいつまでも見送れば寂しいので出航後すぐに去る事にした。妹は、こんな所へ来るから。と呟いた。

 しかし少しだけ希望が有る。この3日間、離別後の遊び方も2人で探しておいたのだ。またゲームだが。

 ダークソウルと同じシステムのエルデンリングを一緒に攻略する。妹がプレゼントしてくれた。明日にでも届くだろう。妹も仕事帰りにソフトを買いに行くそうだ。今週中に必ず一度はプレイしようと約束してある。その約束があるので今日の別れは中程度のダメージで済んだ。良い時代になったものだ。

 魔王が上京した時代は固定電話しか無く、今ほど気軽にコミュニケーションをとれなかっただろう。別れの重みは今とは比較にならなかった筈だ。

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