辺境にて

南洋幻想の涯て

わきゃしま、の、じけん -着ぐるみ事件-

 簡単に足を踏み入れられない秘境には、奔放に育った規格外の禽獣虫魚UMAなんかが生息している。同様にこのような辺境まで来ると怪人もレベルが違ってくる。

 林業日雇いは生粋の古島人ばかりであるため、休憩中はシマグチ講座から傑物列伝まで飽きることがない。近年亡くなった彼らと同世代前後の傑物侠客も源平時代の武将もついこの間の話みたいに語ってくれる。

 


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毎日がピクニック。ついでに日当まで貰える。危険だけど林業は楽しい。

 

-着ぐるみ事件-

 

 活動中であるため名前は伏すが、****(すきななまえをにゅうりょく)というご当地キャラみたいなのがいる。誰のことかわかっても内緒にしててね。キャラ自体はいたって普通のちょっと可愛いゆるキャラだが、キャラクターより中の人がはるかに濃い。以下列挙

 

 ゆるキャラなのに…

☆ハブ捕りに行って捕れすぎたので、入れる場所がなくてダンボール箱に入れた。

☆それをなぜか枕元に置いて寝たので脱出したハブの逆襲に遭い咬まれた。

☆飲んで喧嘩をし、殴られたので交番へ訴えに行き、飲酒運転で現行犯逮捕された。

☆みはらしの良い高台に****ランドを造ろうとしたが頓挫、跡地が由来もわからないまま定番観光スポットみたいに紹介されている。

 

 上記以外にも伝説をかねがね聞いていたので一度見てみたいと思っていた。そしてマラソンイベントで老魔王の命により市場の手伝いをしている時、ついに遭遇した。露店を出すのに電源が届かないから延長コードがあれば貸してくれという。悪を滅ぼす手伝いができるなら、と取りに帰る私。直ぐ取ってきたので信頼を得たのか、君露店の店番しててくれと言ってマラソンに行ってしまうヒーロー。お互い名前も知らないのに。ヒーローは往々にして名乗らずに去るものである。

 

☆ヒーローは初対面の民間人への信頼がすごい。

☆今知り合ったばかりの初対面の人に店を任せて消えてしまうなんてヤバい。

 

 隙あらばディスりしかしない老魔王の手伝いなんか喜んで放棄して彼の店番に立った。

 露店の商品はと言うと、

①走り終えた選手が隣の公式運営テントで順位表をただのA4普通紙に印刷する。

②紛らわしく隣接しているウチのテントが300円でラミネートする。

 というヒーローらしからぬ誤認商法だった。伝説がまた一つ増えた。

 

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 このすぐ左に運営テントがある。そこには運営パソコンと運営プリンターが2組程ある。当店のラミネーターは彼らと昔からの相棒のような雰囲気を醸し出して運営風つくえの上で澄ましている。

 

 実際マラソンを走り終えた人が順位表の印刷と間違えてこっちに並ぶというのが何回もあった。逆のパターンもあり隣でお姉さんが困ったように説明していた。良心が痛んだが見て見ぬふりをした。運営の無料ラミネートサービスと思って来る人もいた。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

 走行距離でスタート時間が別れているのでゴールして来る時間も大体纏まっており、お客さんは第一派第二派のように固まって来る。

 慣れない手つきで(やったことないから当然だ)ラミネーターに完走証明書を通していると見兼ねたお客さんが手伝ってくれたり、お釣りも準備されていないから千円札が続いて詰み始めたりと兎に角必死になって捌いた。

 やがて卒のない仕事が出来るようになったが、ラミネーターそれ自体の動作も遅く長蛇の列は新陳代謝を繰り返しながら少しづつ伸びていく。もう市場の方に戻りたい。

 こんなにヒーローの帰還を待ったのは幼少の頃以来だ。あまりに遅いのでふと振り返るととっくに走り終えた着ぐるみは子供達と触れ合ったりしていた。

 …着ぐるみがやっと店に戻ってきたので市場手伝いに戻ろうとしたが、もはや私の方が切り盛りが上手くなったため残るよう頼まれてしまった。それに遠目には余裕そうに見えたが近くで見るとどう見ても精魂尽き果てている。お客さんの証明書がちょっと破れちゃったどうしようとか聞いてくる。目立たないよう上手くラミネートした。

 

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亜熱帯で着ぐるみを着てマラソンに参加するなんてどうかしている。

 

 ボランティアのつもりで手伝ったから金は断って戻ったのに、後でわざわざ探しにきてまで日当を呉れたから来年も手伝おう。

☆ヒーローは義理堅い。