辺境にて

南洋幻想の涯て

魔術の家

 

注意:この記事にはクモの写真があります

 魔王の屋敷へ来て数ヵ月、魔王経営の宿の管理人として屋敷を出る事を許可された。隣りの集落に在る宿は魔王が改修を続けており永遠にオープンしない。このサグラダファミリアに荷物を移したが、魔王のひらめきで部屋を移らされるし何より老魔王は趣味の日曜大工を楽しんでいるので毎日やって来る。

 日曜と雨の日は私の通う林業は休みなのだがその場合魔王を手伝わなければならない。以前より月に0から2日しか休みがなかったが、今回は特に長く10月2日から数えて今日で74連勤である。地球をひっそりと公転しているマイナー天体のような気分になる。

 

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働き過ぎて私の作業靴もおかしな事を口走っている。

 

 支配欲の魔王は私の行動は勿論、服装や靴の色、おかずの食べる順番まで管理したがるので近くにいるだけでHPMPが減っていく。

 さらに遠くへ逃げ、段々と蜘蛛の糸のような彼の支配欲を希薄にしていかねば心身が持たない。頻繁に開かれる宴会でご機嫌な魔王。その友人たちに遠回しに窮状を訴え少しづつ雰囲気を醸成し、どうにかサグラダファミリアからの脱出にも成功した。

 

 最終的にさらに離れた集落の廃校にたどり着くのだがその前に一軒の空き家を紹介されていた。

 ここで何をしてもどこへ行ってもやがて老魔王の耳に入るため、島に閉じこめられている限り本当の自由なんて私には無い。ただ遠ざかれば耳に入るまでそれだけ時間をかせげる。

 

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この奥にその空き家がある。

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掌サイズの蜘蛛が守っている。小鳥を食べる事もあるそうだ。蜘蛛もおかしな事を言っている。

 


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隠れ住むのには良さそう。

 

 早朝静かに宿を立ちくだんの空き家に着いた。白蟻もあがっていてあまり良いとは思えなかったが、段階的に束縛から解放される計画において、屋敷から離れた立地は必須だったのでこの時はそこを借りるつもりをしていた。

 


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外観は80年代ホラーみたいで好き。

 雨戸は釘が打ってあり開かない。勝手口のような所が開いていたのでそこから入るとキッチンカウンターと業務用冷蔵庫が目に入った。

 前住人はケーキ屋さんで、開店一週間か一ヵ月かで居なくなったそうだ。

 

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鎌で草を払いながら来た。

 

 家の中は時代劇みたいだ。子供を産んで力尽きた母蜘蛛がそのまま貼り付いている。

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 奥の部屋に進むと足元に何かある。

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 …正方形のゴザが部屋の中央に敷いてあり、その上に謎の三角錐が置いてある。踏むと痛そうなのでどけた。

 他にもへんなものが無いか探してみた。壁と柱に、家の中心線を通るように裏の世界政府みたいなシールが見つかった。

 

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新しいアノンだろうか。

 

 南の離島なのでスピリチュアル系は掃いて捨てるほど居る。ここで何らかの儀式でもしていたのだろう。こんな原価数十円で召喚されるような悪魔なら愛用の草刈り機で一撃である。

 突然背後の勝手口が乱暴に開いた

 

 

 

魔王が召喚されてきた。

 

 

 

 この家もやめた。