辺境にて

南洋幻想の涯て

さよならマーズピープル

 近頃は日雇いの帰りにスュリの畑へ寄り、日没まで農作業をしている。こうしなければ日曜日に畑に出ろと魔王に言われるからだ。できれば週に一日ぐらいは休みたい。だから疲労した体に鞭を打って畑へ寄る。

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 夜9時、本を読んでいるとトラボから写真が送られてきた。

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 マンゴーに元気が無いので水遣りをした方が良いですか?と添えられてある。

 聞けばまだ一度も水を遣っていないと言う。とりあえず少しでも水を遣り、明日にでもしっかりと遣るべきだと伝えた。それにしてもよく枯れなかったものだ。

 私は水遣りを手伝おうか?と聞いた。良いんですか?と返ってきた。そろそろ眠りたかったが自分から言っておいて嫌とも言えない。仕方がないので作業着に着替えた。

 30分ほどして迎えに来た彼の車に乗り込み畑へと向かう。水道は何箇所あるのか訊ねた。たぶん一箇所スと答える。それでは手伝いようがないと言ったが、見ているだけでも良いからと言う。お化けが出そうで怖いのだそうだ。

 しかし彼は私の事も半分幽霊だと思っていると時々言う。幽霊でも半分なら良いのだろうか。


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 夜中の作業など想定されていないビニールハウス内は真っ暗だ。車のヘッドライトとスマートフォンの灯りで作業をする。私はバケツで手伝った。とても疲れた。最後になって水道をもう一箇所見つけた。

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 帰路、火星人が日雇いを辞めるという話を聞いた。精神的に疲れたのだと言う。特に私が怖いと言っているらしい。普段は優しいのに時々キツい一言を発するのが堪らないのだそうだ。

 ただこれはその場にいなかった私を生贄に選んだのではないかと思う。よくからかう二人を前にして原因はあなた方ですとも言いづらかったのではないだろうか。

 それにしても怒ったりもせず、──まあ笑ったりはしたけど、マンゴーだのスイカだのまで呉れてやったのに怖いと言われてはこちらこそ堪らない。私の半分幽霊の部分が怖いのだろうか。半分の幽霊、確かに恐ろしそうな響きである。

 だが火星人総辞職の真因は、彼女に振られたからではないかとトラボは言う。

 一度も会ったことのない彼女と暇さえあれば連絡を取り合っていた火星人だが、結局一度も会う事のないまま別れてしまったようだ。

 彼がTwitterに投稿していた彼女への痛ポエムまで全て削除しているそうなので、別れたのは本当だろう。その傷心に加えて職場での奇行を笑われる日々にとうとう疲れてしまったのだ。しかし可笑しな事をしておいて笑うなと言われても困る。

 何れにせよ辞めるというものは仕方がない。過去一番長く続いたアルバイトでもたった3ヶ月だったという彼。私の事をどう言っているのかは知らないが、生きにくそうな彼の事が少しは心配である。

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あげようと思っていたお菓子はすっかり無駄になった。