辺境にて

南洋幻想の涯て

赤のリビング

 消防団の制服が届いたので裾上げのため兼ねてから興味のあったミシンに初挑戦した。

 借りてきた古いミシンの埃を掃除し、入っていた説明書をみて「電源の入れ方」から初めた。たかが裾上げに1時間もかかってしまったが今後は海を渡って洋裁店まで持っていかなくても自分で出来る。この意義は大きい。

 こうなると自分のミシンが欲しくなる、年末に林業社長が余分に呉れた日当で格好良い黒いミシンを買った。

 社長は酒癖が悪いそうであちこち敵もいるらしいが、私にとっては変な事ばかり言うものの数少ない理解者だ。私がストレスを溜めて内地に帰ってしまわないか幹部の方と二人心配してくれている。

 何故か。それは私が貸与され使っている道具の元の持ち主、前に働いていた青年が集落で上手くやっていけずノイローゼになり引き上げていったという前例が有るからだそうだ。縁起悪っ。

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最終日の日当で購入したミシン。早く校長室へ引っ越して使ってみたい。

 

 1月1日 今日の日直のしごと、校長室修繕。

 

 イージーフローリング(記事「日直のしごと」参照)が生木のままなのでこのままでは寿命が短そうだ。特に水分に弱いと思う。検索の結果、ステインというので着色してニスで保護するのが良いようだ。安く上げるつもりがそうでもなくなってきた。

 

 ステインとニスを入手した。高級感が出るというので色はマホガニーにした。


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 早速塗り始めたがどうも元の色の方が好みだ。赤すぎる。しかし途中でやめるわけにもいかず最後まで塗った。

 


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2度塗りのため既成フローリングの部屋で4時間待機。寒い暗い退屈。

 

 4時間後、もっと好きな色に化ける様祈りながら二度目の塗装をしたが祈りは届かなかった。床色が暗いと閉塞感があるように思う。赤みも増した。壁色とも合っていないし板の隙間で沈黙していた畳もその白さをもって途端に自己主張を始める。失意の中この日は帰った。

 


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左:一度目 右:二度目

 

 翌朝、ニスを塗りに向かうが床色がどうしても嫌だったので電気やすり?を借りてきて塗装を剥がす事にした。

 

 1月2日 今日の日直のしごと、床をどうにかすること。

 

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紙やすりをセットし電源を入れると大暴れするこのマスタングを床に押し付ける。塗装と一緒に手の骨から肉も剥がれそうだ。

 

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 一列ほどやってみたが何故かカタツムリが食った様な変な跡が出来る。電気やすりを調べると螺子が一本飛び出ていて紙やすりを突き抜け床を攻撃している様だ。螺子を締めようとしても滑っていて回らない。だが一列削ってしまったので今更やめるわけにもいかない。しかしこのまま強行した結果、カタツムリと畳が団結して革命運動をしている様な床になってもたまらない。仕方なく電気やすりの使用は諦めて手で擦る事にした。

 


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出た杭が打ってくる。

 

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手で熱心に磨いても染み込んだ塗料はほぼ落ちない。長い闘いが始まる…

 

 正月から汗だくになって床にやすりをかけているとヒビだらけのガラス戸を誰かが叩く。開けてみると区長だった。休憩がてら校庭を少し散歩した。

 校庭管理前任者(ハルクホーガン)が刈った雑草の山に要らない洗濯機を埋没させて隠蔽し、遺棄した話や旧校舎の廊下に洗濯機を放置、遺棄した話を聞いた。洗濯機は余程厄介な存在の様だ。そういえば森に贋松茸を採りに行ったときに古い洗濯機を見たことがある。私も気をつけよう。

 区長は早くこの集落においでと言ってくれた後去った。

 


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贋松茸はみつからなかったが野生の洗濯機がいた。

 

 やすりをどうにか終わらせたが折角朝から来たのにもう11時だ。時間を浪費してしまった。しかもやる気のムラがそのままやすりに反映されて色むらのある床になってしまった。しかし見方を変えるとアンティーク風で悪くない。

 

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アンティーク加工を覚えた!

 

 少しやる気が出てきたので掃除をしてそのままニスに着工した。これで艶が出ればいい感じになるだろう。ニスを塗ると色が濃くなった。赤い。やすりをかける前ぐらいに…

 またやる気がなくなってきたが途中でやめるわけにもいかず最後まで塗った。小さいハケしかなかったのでステインよりはるかに時間がかかり昼を食べそびれた。隙間から覗く畳が笑っている。

 資金と時間がかかりその上残念な仕上がり。労力に至っては既成品の比ではない。これがイージーフローリングの特徴だ。

 


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何と元に戻った。

 

 失意の中この日は帰った。