辺境にて

南洋幻想の涯て

ペンは剣より出でて

 年末ごろから急に魔王が弱々しくなった。私がツイッターやインスタ、当日誌に離島に幽閉されている事を書き続けたので、それらを読んでくれた魔王界隈の方々が自由にさせてやればと言ってくれたらしい。それも一人二人ではない様だ。流石の魔王も少し参ったとみえて今度は不気味なぐらい優しくなった。図らずも拙文を綴ることで魔王の「険」を折った形になる。

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 魔王曰く私は離婚時の中学生で時間が停まっていたのだそうだ。私の着る服を選んでみたりと異常な干渉ぶりから何となくそんな気はしていた。今後は成人扱いをすると言うので一応休戦した。もう島の外に出ても良くなったが廃校が気に入っているので今後は自由意志を以てそこで暮らす。もちろん引き続き魔王の農業手伝いもする。

 

 今日の日直のしごと、校長室修繕。

 

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おはよう廃校。

 

 校長室の床はどうしても色が気に入らなかったのでやり直す事にした。しかし塗料がしっかりと染み込んでいるので手作業で落としても限界がある。

 


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摩擦熱で指を火傷しそうになる。

 

 魔王も今後使うというので半分づつお金を出し合って新しい電気やすりを買った。届くまで作業は出来ないので床を塗り直すための新たな塗料を考える。今度は適当に決めずに色見本などからよく検討して選んだ。ドリフトウッドという色が古木風の落ち着いた色で気に入った。最初の塗料とニスは無駄になった。

 日曜に全て揃うのでその時一気にやってしまおう。日直のしごとを中止してソファで昼寝をした。行き当たりばったりではお金がいくらでもかかるので良くない。

 

 退職金目当てで消防団に入った。出初式の案内が来たので林業の仕事始めを休んで参加する事にした。練習が本番前日の一日のみなので不安になった。離島側の団員たちと船をチャーターして海を渡った。渡海費用は消防団から出る。

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 練習が始まったが何故か式の段取りが明確に決まっていなかった。何度も中断し偉い人達が集まり、段取りを考えたり変更したり相談しながらやっと指示が来るので全体的に混乱した練習になった。何かと「気をつけ」のまま放置される。海から吹く風が冷たい。行き当たりばったりでは時間がいくらでもかかるので良くない。

 また普段訓練をしていないから仕方がないのだが新入団員の練度も低く、右向け右をした時になぜか左を向いたおじさんと至近距離で見つめ合ったりした。団員の平均年齢も高く、方々から腰が痛いといううめき声が聞こえてくる。かく言う私も初めて履くブーツで靴擦れができてしまい、ふわふわぴょこぴょことしか歩けなくなってしまった。この日の我らは、県内でも屈指の規模を誇るコント集団であった。

 


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靴擦れの中、出初式が始まる…。あと裾もなんかおかしい。

 

 翌日、もう精々恥をかいてやろうと開き直って本番に臨んだが、皆案外スムーズにこなすので拍子抜けをした。だが靴擦れだけはそんな事とは無関係に痛む。皆それなりにきびきび動く中私だけが何者かの意思に操られた様な不自然な動き方をしていた。もう動きたくないが町内パレードが始まってしまった。

 半ばヤケになり最後尾からふわふわぴょこぴょこと着いて行った。ふわふわぴょこぴょこなら今年の干支みたいで良いではないか。

 足の痛みに集中すれば腕への意識が疎かになる。慌てて腕を操作すると今度は意識が向き過ぎて手と足の動きに相関性がなくなりチグハグになっていく。前方の皆は不揃いながらも粛々と進んでいく。背後からは消防車が徐行で付いてくる。凛とした町の一場面。もうコメディアンは私しか居ないようだ。帰りたい。

 最後に梯子車から餅まきをしたので両手を振ってアピールしたが、団員には呉れない様で飛んでこなかった。結構全力で手を振ったのに虚しいパントマイムに終わった。


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たまに一瞥をくれるが、なんだ団員かという風で餅を寄越さない。

 全て終わったのでまたぴょこぴょこと離島に帰った。