辺境にて

南洋幻想の涯て

グッド オールド アクトク

 今日は昼前で仕事を切り上げる事になった。シシの禁猟期間に入るので今期最後のシシ肉パーティをするそうだ。私も招待されたので参加する事にした。一食浮くばかりかご馳走だ。

 

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ワイヤーを掛けた木を引きずる機械。初めて見た。

 買い出しに荷物持ちとして同行する。親方は修理に出したチェーンソーを取りに行き、私は前回の給料を貰いに行き、両人の本島側の用事を済ませた後最後に合流して酒など買い込む。そして定期船でまた離島側へ帰る。

 二人とも仕事を終えてそのまま来た為泥だらけで、おまけに私は腰に鋸、親方はチェーンソーを持っている。

 街歩きにしてはなかなか攻撃力のあるファッションだと思っていたら死神の鎌みたいなのと巨大なハンマーを持った二人組のパーティとすれ違った。

 

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西の港行きの古い船室風景。炭は親方の。

 

 一旦帰宅してシャワーを浴びて行ったらもう宴会は始まっていた。着ぐるみの親方の屋敷前の道路を半分ほど占領して皆で焼き網を囲んでいる。

 こんな事を内地でやれば顰蹙だがこの島人ばかりの集落では問題はない。集落自体が緩やかな家の様なものだ。入れ替わり立ち代わり集落の内外から人が現れ、知った人が通れば呼び止め一時参加させ、もはや公的な集落行事である。

 この集落はアクトクと言って隣のヌミシャン集落と併せて気の荒い人が多いと、いつも食べ物を呉れるイキョオのおばあさんから聞いている。

 昔は交通手段と言えば船だった。この両集落は海が荒いので、波の音に負けない様自然に言葉も大声で乱暴になり、荒い気風が醸成されていったのではとおばあさんは推論している。ありそうで面白い話だと思う。

 確かにこの辺りの数少ない知った人を思い浮かべれば血の濃い(血の気が多い事)人物ばかりだ。喧嘩して猟銃を持ち出したとかナタで腕を切ったとかそういう話を聞いた事もあった。最近は野良ビーグルまで出てバイクで通ると追われる。

 

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開始直後だからまだ種々写っているが、基本的には大皿に何杯もあるシシを焼き続ける宴会、と言うか祭りである。野菜なんてものは一切ない。(きのこは黙ってカートに入れておいた)

 

 路上で宴会をしていて懐かしい気持ちになった。子どもの頃の記憶にある島の風景はこう言うものだった。この集落には知り合いも居らず初めて来たのだが心から油断して過ごせた。

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 豪快に厚切りになっているシシはアブラの所が特に甘みがあり旨い。だから脂身を大きく残して切る。脂身のみの切片さえ有る。ぼとぼと落ちる脂に着火し焼き網は何度も火だるまになる。

 髭面の親方は酒が入り更に陽気になり、何となく時代劇の山賊の頭目のように見えて来た。

 初めて関わるこの集落の人々への挨拶代わりに隠し芸の変わった楽器を弾いた。珍しがらせる事には成功したものの余りうけはしなかった。しかしお頭は動画で撮っていた。facebookに載せるのだそうだ。

 あまりに焼き網が燃えるので氷を置きましょうと提案したが氷は無かった。山賊お頭は酒をかけて鎮火を試みたが炎は更に元気になった。

 

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横の穴から火を噴くのを初めて見た。

 

 すっかり日が暮れ、また新たな人が来た時に私は入れ替わりで帰った。お頭に今日のお礼を述べたがぐにゃぐにゃしている。明日は仕事があるのだろうか?

 それにしても島人だけの集落で、未だこんなにも活気のある所が残っていたとは。荒い海に鍛え抜かれた血筋の末裔。まだ面白い事がありそうだからこの粗野なお頭にもう少しついて行ってみよう。

 清々しい様な気持ちを胸に辿る星の輝く家路、畑の一本道に野良ビーグルが立ちはだかる。