辺境にて

南洋幻想の涯て

観光案内

 血縁者を除いて、内地から遊びに来てくれた最初の人。それは私がたった一月だけ勤めて辞めてしまった鉄工所の工場長だった。この会社は労働環境が良く今回のGWも9連休有るのだそうだ。従業員たちも良い人ばかりだった記憶がある。

 これは憶えていなかったのだが、私は面接時、一年ぐらい働いたら農業を継ぎに南西へ向かうので辞めます、と言ったそうだ。面接に来て辞める話をするのが面白いからと、社長の難色を退けてこの工場長が推してくれたのだそうだ。私も大分おかしいが雇う方も雇う方である。バイクがパンクしたので工場は一月で辞めた。

 そんな工場長と奥さんを西の港まで迎えに行き、二日間観光案内をした。二日目には更に2名合流して計4名を島の西半分あちこちへ連れて行った。もちろん廃校でも遊んだ。

 夏の観光ガイドのアルバイトも打診されているので良い練習になる。そういえばエッチ虫はかなり数が減った。スュヴェ(エッチ虫)の時季が終われば次は虻の時季、その次は羽蟻の時季だ。羽蟻が三度飛べば梅雨が終わり、夏が始まる。


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ガイドをする私。二日間ですっかり声が枯れてしまったが楽しかった。

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 校庭のブランコの前に変わった花が咲いた。ガイドは動植物に詳しく無いのでこれは何かなどと聞いて困らせてはならない。それにしても何々の一種という言い回しは便利である。

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 魚の一種。釣りもしたが何だかよく分からない魚ばかりが釣れる。もっとわかりやすいのが釣れてくれないとガイドが困る。

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 ドゥッカマにライオン岩を観に行った。少しはガイドらしい事をしようと足元に生えていた長命草を手に取り、これは食べられる野草なんですよ、と口に運んだ。しかしそれは長命草ではなかった。30分程口の中が苦味空間になった。苦味を薄めようと湧いてくるよだれまでもが苦い。付き纏う虻をたたき落としたのは少し受けた。

 スュリの庭と農園へも連れて行った。魔王は凍らせてあったマンゴーを出してもてなしてくれた。ここでの休憩とニッシャムロで日没を眺めてのんびりしたのが特に喜んで貰えたようである。

 人にもよるだろうが折角コンビニも信号も無い世界に来たのだから何もしないで海や森をぼんやり眺めるのがお勧めだ。ガイドは引退した。


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ガイドの一種。

 

 集落の総会に出た。その年の行事連絡や会計報告があり20分程度で終わった。帰りに区長から今度家に飲みに来ないかと誘われた。酒好きの私は喜んで参加を表明した。

 当日、約束の時間より早く校長室を出て辺りを散歩してみる。あらためて見るとこの集落の色々な所から我が廃校は遠景として見えている。特に体育館がよく目立つ。

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 区長宅を訪ねてみると、揃っている十数名の半分は見た事のない顔である。見知った集落の人々から始め乾杯をして回った。知らない人達は区長が内地で勤めていた頃の同僚後輩達との事だった。

 途中郵便局長や貸切船の船長も加わり楽しく飲んだ。女性陣も含め全員が酒好きの様で大いに盛り上った。焼酎をしこたま飲み余ったおかずまで持たせて貰った。最高だ。

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これでまた当分食べる心配をしなくて済む。

 

 今夜の参加者の内数名はこことはまた別の離島出身との事だった。二週間後その島で舟漕ぎ競争が行われるのだそうだ。誘われたので行ってみる事にした。その島にはまだ渡った事がないので楽しみである。

 昨日までの観光ガイドで痛めた喉は今夜の宴がとどめになりとうとう声が全く出なくなった。