辺境にて

南洋幻想の涯て

記念の一撃

 山賊のお頭が相方と呼ぶTさんは落ち着いていて良識的な人物だ。何故正反対の性格のお頭と組んでいるのか不思議でならない。面白いからだろうか。

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この炎に弱そうなモンスターは笹であり昔の境界の跡だそうだ。確かに気を付けてみると点々と目印のように意図的に植えられているのが解る。因みに炎で攻撃すると新聞に載ることができる。

 チェンソーやその他の機器を使う出番も滅多に来ず、今日も私はきざんだ枝葉と丸太を良い事のあった日のゴリラのように投げ、分別して積んでいた。


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今に腰痛になるだろう。

 Tさんが手招きをするので燃料かオイルかと近づいていくとこの木を切れるかと訊く。見ると私はまだ切ったことのない太い胴回りの木だった。切り方を教えて下さいと答え、教わりながら初めて大きめの木を伐倒させてもらった。

 もっと大きな木は幾らでもあるが、私にとっては大物なのでとても嬉しかった。誰も居なければ飛び跳ねて喜んでいたに違いない。

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 大きさを伝える為に軍手を乗せて撮っておいた。

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 今冷静に見ると記憶の4分の3程度の太さしかない。撮るのではなかった。そして今度は重機とツッコミの人に呼ばれたのでその場は離れた。

 夕方前には仕事を終え、廃校に帰りシャワーを浴びている時もまだ感動は続いており、伐倒した木のことばかり考えていた。そして思いついた。記念に鍋敷きを作ろうと。

 丸太を一本貰いますと施主に一応電話をしてからまた現場に戻った。

 しかしあの後もTさんは仕事を続けておりどの丸太が記念樹だったか判らなくなってしまっていた。

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もうこの辺のでいいや。

 何とか丸太を見つけたので置きっぱなしになっていたお頭のチェンソーで切りにかかった。

 おそらくあまり手入れのされていないそれは恐ろしく切れ味が悪かった。Tさんのと大違いだ。エンジンから少し白煙まで出る。それでも他に手段も無いので時間をかけて切った。

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 切れ味が悪すぎて摩擦熱で焦げた…。

 本当は内地の弟妹にも贈る為に後2つ切りたかったのだが山火事になりかねないので諦めて帰った。

 

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 Tさんが切ったであろう綺麗な断面を下にすると辛うじて鍋を真っ直ぐと置ける。


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 生木である為水分を多く含みしっとりとしている。屋内で陽がよく当たる場所を見つけ乾燥させておく。

 

 そして夕餉にいつもの路上パーティへ向かう。


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 今日はお頭の兄が魚をたくさん釣ってくれていた。フクルビが特に美味しかった。赤い魚も美味しかった。


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俎は卒業した。

 炭が無くなってしまい袋の底の僅かなもので騙し騙し焼くも火力が弱い。脂身をたくさん乗せて滴った脂で火勢が強まるのを期待したがそもそも焼けないので脂が出ない。やがて短気を起こしたお頭はガスバーナーを持ってきて直接焼き始めた。

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 たくさん並べた脂身に着火して肉が全て炭になってしまい早いお開きになった。


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 校長室に帰るなり何者かに頭を殴られた。涙目になり足元に転がる記念鍋敷きを見つめる。

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 ドアの上で乾かすのはやめよう。