辺境にて

南洋幻想の涯て

旅路⒋

 尼崎の友人Kと会う。彼は子供の頃神戸に住んでいた神戸っ子だ。阪神淡路大震災で家が潰れ、それから大阪で育ったのだ。

 登山仲間Gと同じく彼とも郵便配達アルバイトで友達になった。いわゆる乗り鉄というヤツで移動は彼に任せておけば間違いがない。そんな彼も一昨年めでたく正社員になり後輩も沢山できもはや中堅だ。そんな乗り鉄Kとの遊びはいつも魚崎から始まる。酒蔵巡りである。

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 郵便屋さんの勤務はシフト制だ。だから遊びに行くのはいつも平日にしていた。どこへ行っても空いていて快適だ。勿論今回もそうである。

 こうしていつもの酒蔵巡りが始まった。彼は開口一番「XXさん(私の姓)とはここへ来た事ありましたっけ?」と言った。もう何度目だか分からないぐらい来ている。そう答えると彼は笑って誤魔化した。彼は心配なぐらい記憶力がない。


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この百黙という酒が大変お勧めである。神戸土産はいつもこれにする。

 酒蔵の次は私の希望でハーブ園に行った。野草の利用が身近になったので知識を増やそうと思ったのだ。

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無料のハーブ講座に参加した。虫除けなど学べて勉強になった。

 ハーブ園は素敵なところだった。中高生のカップルがデートをしている。私は居た堪れなくなったのだが乗り鉄Kは意に介さない。お茶にしましょうと言った。


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温室だが私の住む離島より湿度も温度も低いようだ。スュリの海辺に生えている植物たちが展示されていた。

 おしゃれな温室に併設されたおしゃれなカフェに入りかかるとおしゃれな店員さんが出てきた。そしておしゃれじゃない我々をみて少し困った風に言った。

 「ここはお酒は有りませんが大丈夫ですか?」

 乗り鉄Kはハイ大丈夫ですと元気よく入ってしまった。店内では数組のおしゃれなハーブたちがデートをしている。野草なんかの来るところではない。私は居心地が悪かった。乗り鉄Kは何ともなさそうだった。現役時代から彼の鈍感力がたまに羨ましかった。

 メニューを見るとグリューワインがあったのでそれとアップルパイを食べた。視察に来たライバルハーブ園の上司と部下という脳内設定で乗り切ることができた。

 帰り際に麦焼酎のコマーシャルに出てきそうなおじいさんが入店してきた。彼は大きく無遠慮な声で「何があるの?なんぼ?じゃあええわ!」と言って出ていった。良かった。ここにも野草が居た。


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野郎二人を乗せてロープウェイはゆく。かわいそうに。

 

 夜はひょうご五国ワールドという店で飲んだ。乗り鉄Kとの夜はいつもここだ。まあまあ安く、メニューは豊富だ。神戸のB級グルメに強いのだそうだ。そして日本酒。灘五郷を擁する兵庫だからとにかく種類が多い。


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 私の去った後の第N班の事を聞く。3年は経ったのにメンバーが全く変わっていなかったので驚いた。まだみんな月に一度ぐらいは私の話をしてくれているそうだ。お世辞だろうが嬉しいものだ。嬉しいので一升は飲み、飲み過ぎて大阪まで帰れないのでアパホテルへ泊まった。

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 翌日は休みの妹が神戸まで来た。神戸には弟夫婦が住んでいるので今日は一緒に遊ぶ。午前中は弟夫婦、妹と異人館の辺りを歩き、昼食は呼び込みに従ってインド料理を食べた。美味しかった。

 私はインド料理が好きだ。島にも移住してきてくれればいいのに。外から来る人間のタイプはあまりに偏っている。スピリチュアル系(スピってる人と言うそうだ)や自分探しの人たちが多い。そういう人たちももちろん嫌いではないが、もっと多様な人間がくればグループの壁も壊れて楽しい筈だ。例えばインド料理店を運営できるタイプなどが良いだろう。

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良いだろう。

 

 午後からは、弟の3人の幼い子どもたちが幼稚園や小学校からそれぞれ帰って来た。皆で小さな水族館へ行った。


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 それから夜は港の辺りを散歩した。この日は阪神震災の日だったから何か色々やっていた。甥姪があれこれ尋ねるので、災害の怖さを説明しようと努めた。だがどう言ったものだか分からない。

 皆死んじゃうよ、と言っても余りピンとこないようだ。もし助かってもお家も学校も幼稚園も全部無くなって、もう二度と元の町へ帰れなくなるし、会えなくなる友達もいるかも知れない。と付け加えてみたがしっくり来ない。幼い子どもに故郷だの地元だのという感覚はわからないだろう。

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 お父さんやお母さんがいなくなってしまう子も居たよ。と言うとようやく少し憐憫した様子だった。幼児が所有している唯一の財産は保護者の愛情で、それはふるさとの始まりなのだ。