辺境にて

南洋幻想の涯て

旅路⒊

 夜はまた友人と飲みに出かける。今回は10日も滞在するので旧友たちとできる限り会う予定にしている。

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 地元の友人夫婦の次に会ったのが小学生の頃からの友人Tだ。Tは旧姓なのだがいまだにそう呼んでいる。

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 Tはバンド活動を長らく続けておりベーシストだ。私は一眼レフを持っているのでよく撮影を頼まれた。

 夜、仕事帰りの彼と駅で集合し、まあ方向音痴の私だからスムーズには集合できなかったが兎に角集合し、夜の飲み屋街を行く。


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幼稚園の頃から何度も来ている駅なのに見た事のないマップに出る。Tと合流できなければここで白骨になっていただろう。

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 何となく入った旧交を温める為の一軒目は店の個性が強く、すぐにその店の話題に引きずり戻されてしまうので程々にして出た。都会では会話までが迷子になる。

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 二軒目のイタリア料理店でようやくお互いの近況を話し合った。ワインが上等で美味かったので水のように飲める。ただでさえ方向音痴な私の脳は酒でふやけ、島の地理の位置関係をうまく説明できない。

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 ふと壁を見ると都合の良い事に私の住む島の地図が掲示されていた。それを基にアクトクだのスュリだのでの活動報告をした。

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 それからソテツキーホルダーを渡した。こんな珍妙な贈り物はまあ引き出しに永久保存だろう。そう思いつつ渡したのだが意外にも彼はその場で自らの鍵束に加えてくれた。敵対部族の金玉だと言ってみたが本気にされなかった。

 

 Tはなんちゃらかんちゃら士と言う精神疾患を抱えた患者さんの話を聞いたり仕事を斡旋する仕事をしているらしい。

 彼は昔から人の話を聞くのが上手いので天職だと思う。世の中のためになっている立派な人間だ。

 中学生の頃、両親の離婚で心に闇を抱え、闇という単語が格好良いことに気がつき中二病に突入し、それが慢性疾患となった私とも長く付き合ってくれている。中学生当時の彼は、少なからず私を治療してくれていたのだろう。勿論彼我にそんなつもりは無く、ただ友達付き合いをしていただけだったのだが。兎に角私を見放すことなく救ってくれていたのだと思う。

 だがそんなDr.Tでも私の慢性疾患の方は治療できなかったようだ。

大人になってもこのザマである。

 

 次に登山仲間のGと会った。

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 Gは結婚して家まで購入していた。彼とは郵便局のアルバイト同士として出会った。絵に描いたようなヤンキーで私は初め彼を避けていた。だが何かで酒を飲んだ時、2人とも同じゲームが好きだと判明し、それがきっかけで仲良くなった。彼にはゲームやアニメが好きという意外な一面がありそのギャップがなんとなく面白かった。旅行や登山、色々なところへ行った。


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友人G。ある時は崖に垂らされた鎖を何十メートルも上った。それから雲の上にも行った。

 彼は地元の怖そうな人たちとつるんでおり、バイクは改造するしジェットスキーには乗るしヤンキーの鑑だ。不誠実だと感じた時は相手が上司だろうがお客さんだろうがキレる。組合室の壁を蹴って穴を空けた事もあった。

 しかし口の悪い上司から「おいチンピラ」と言われてもそういう事ではキレなかった。ドチンピラと言われても涼しい顔をして、軽口を言い返したりしていた。ラストチンピラーの雅号はむしろ私のツボに入り面白かった。

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 そうして足繁く彼のワンルームマンションに通っていた頃、私は自分用の錫のゴブレットを置いていた。私はその存在を忘れかけていたのだがGは引っ越しても捨てずにまだ持っていてくれていた。それで私はワインを2本とまだウイスキーか何かを飲んだ。


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私。基本的に世界不思議発見みたいな服を着ていた。知らない子に、探検隊がおる!と言われたこともあった。

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一機減る。残機制で良かった。

 私は自分でいくらでも休みを作れる身分だからまた山に行こうと約束をした…と思う。途中から彼の奥さんや友人Kもいたようだ。それから色々な人に、Gと飲んでるから来い来いと迷惑電話をかけたようだがはっきりしない。


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富士登山の事は一生忘れない。

 一つ憶えているのは土産のソテツキーホルダーを渡した時の事だ。手作りの物だと言って鞄から無造作に取り出し渡す。

「何コレ」

「敵対部族の金玉」

「ほんまはなんやねん」

「敵部族随一の勇者の…」

「ほんまの事言えや」

「えっとぉウチと領土争いをしてる部族がおってぇ」

 とからかい続けていると彼は最終的になんだと判断したのか、それを神棚に安置してしまった。