辺境にて

南洋幻想の涯て

アダン

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 昼下がり、海からの涼しい風の吹くハンモックで休んでいる。天頂のアダンの実を正面にぼんやりと眺め、波の音にいつかまどろむ。顔にアダンの実が落ちる夢をみて目が覚める。

 林業社長の離島側の現場は終わった。次は本島側で仕事があるそうだ。私はドラゴンタンカンを増やすためしばらく参加できない。

 林業の方では幹部どころか専務とまで言われた事がある。勿論冗談で言われたのだが、一世代近く皆より年下の私はそれだけで優遇されがちだ。本物の若者などはそれこそ宝物扱いだろうがほぼ内地へ上るので居ない。

  だが私には正規に雇用されてはならない縛りがある。町から農業の補助金を貰ったのであくまで農業をしなければならない。金だけでは無く、講習から交流会まで色々面倒を見てもらっている。本土の農大にまで一月入寮して学ばせてもらった。

 だから何かと報告義務もある。今回も必要な資材を計算したり測量をして町に報告しなければならない。だが数学が常に赤点だった私には誤魔化し方を考えるしか術はない。そして勿論そんなものは無い。

 数学と言えば、こんな物を憶えても社会では役に立たない、と 槍玉に上がるのは何故かいつもサインコサインタンジェントだった気がする。皆そこでつまづくのだろうか。庇えば味方になり、代わりに頭脳労働を引き受けてくれるだろうか。

 あらゆる所で労働者が不足し、60歳成人の様なこの世界では私など微分積分だ。当然微分積分が何を計算するものかはわかっていない。そしてそんな余計な事を考えていても何も解決しない。アダンの園を後にし、肉体労働に戻った。

 

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ベンガル嬢の自由が羨ましい。

 


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 新たに借りたタンカン用の土地を役場に格安で開墾して貰った。土の「天地返し」までしてくれると言うので日曜日、開墾の人が居ない間に白線で目印を引いた。

 それから置いてあったユンボで土地を平らにした。魔王から乗り方を少し教えて貰った。結構楽しい。


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 白線を引く器具は、私の住む廃校には無かったので別の廃校の物を使った。もう要らないからと言うのでこちらの廃校に置くことにした。また何かの役に立つかもしれない。石灰は無かったので購入した。石灰の袋の裏には野球の塁間距離などの線の引き方が載っていた。

 植栽図を作り、必要な苗の本数を役場に報告した。

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合間にキィイナバ(食べられる黄色いキノコ)を探しに行ったが無かった。シシが一面荒していた。

 


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 それからドラゴン。この間エッチ虫と戦いながらコールタールを塗り終えた単管パイプ、全81本を魔王と打ち込む。


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 さらに魔王のドラゴンを株分けして貰い、数日かけて乾かす。乾かさずに植えると腐るらしい。役場にも魔王にも言えないが、地に根を張るような連中とは解り合えそうに無い。たまには外に出たい。


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 そして汗だくになりながらパイプの周りに土を盛り、そこに株分けして貰ったドラゴンを植え付けていく。苗の上下をすぐ見分ける方法を発見した。

 兎に角骨の折れる数日間だった。ドラゴンの杭に関してはまだ完成では無いが粗方終わった。魔王が植え方から労働までかなり手伝ってくれた。

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 旅人の木(セーブポイントか何か)が私のドラゴン達を見守ってくれている。

 

 

 そして最後に。

 

 アダンの園へ。果実たちを追放するため「蛇」と共に。


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 昼下がり、海からの涼しい風の吹くハンモックで休んでいる。天頂のアダンの葉を正面にぼんやりと眺め、波の音にいつかまどろむ。もう誰にも邪魔されない。