辺境にて

南洋幻想の涯て

 マンゴーの剪定が終わったので畑は一段落した。また日雇いへ行っている。魔王の農業は口は出しても日当は出せない文化祭の出し物レベルだ。本人は真っ当な生業のつもりでいるようだが。

 流石に魔王が日当を出さないのは酷いと私に同情が集まっている。本人は息子にはその分投資をしていると苦しい言い訳をしているそうだ。小さな箱庭世界に逃げ込み閉じ籠る老人に何を説いても無駄だ。耳触りの良い事しか言わない者で固めた狭小な人間関係に自己表現の発露たる農園。老廃物の溜まった葉は落ちるのを待つだけだ。

 魔王がそうして稼いだ金は、既に片足を突っ込み更に残った足も上げんとしている自らの老後の介護費用に残しておいてくれれば良い。もし尽きればそこまでだ。離婚後養育費も払わずに自分の好きなように生きてきたのだからもう思い残すことも無いだろう。

 彼は去年会った時から某という制度について私に語るようになった。忘れてしまうのか何度も同じ話を繰りかえす。これは彼女?(よりを戻したっぽい)に教えてもらったのだそうだ。

 魔王が嬉々として語るには、給料を出さなくて良い労働者が手に入る。但し食事と寝る所だけ用意しなければならない。と虫の良い話だった。やりがい搾取の様なものらしい。無給のリゾートバイトだろうか。流石にそんな事が罷り通っているとは思いたくない。何か誤解があるのだろう。

 それに奴隷がいないと成り立たない事業なんてその時点で成り立っていない。ワーキングホリデーのように遊び半分で来るなら兎も角だが、魔王は週7日休みなく働かせるだろう。さらには農業の好きな娘がくればそのまま嫁にしろと実に魔物らしい事を言う。面目躍如だ。また利益度外視の趣味でやっているようなのが二人に増えたらたまったものではない。

 中島らもの昔のエッセイで農家の嫁問題が語られたことがあった。

 某県の農村が都会で農業の良さをPRし、若い娘に農村へ嫁に来てもらおうというキャンペーンを打つ。それに対して著者はそんなアプローチでは絶望的だと嘆く。なぜなら彼女達もまた村社会を振り切って都会に出たのだ、だから農家の嫁がxxx付き労働力なのぐらい分かっている。確かそういう内容だった。この老魔王はそこから何も進んでいない。若い女が移住して来ないのは田舎の魅力が周知されていないためだと考えている。

 最も、労働その他はさせたいが賃金は払えない、というのは魔王農園のみならず一部の零細の宿痾と呼ぶべきものかも知れない。奴隷制度と悪名高い技能実習生制度はようやく廃止されると聞いた。奴隷の解放されてしまった後の綿花畑は有るべき姿の藪に還るのだろうか。

 どこまで本当だかわからないが、スュリ集落は私の祖先がその使用人と共に拓いたそうだ。土豪のような家系であったそうだから、その歴史上農奴も使っていた事だろう。滑稽にもその末孫が親子間でそれを再現している。これは罰なのかも知れない。流石にヤンチュ達程には働いてはいないが因果なことだ。

 

 

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