辺境にて

南洋幻想の涯て

テラフォーミング計画

 我々は旧暦上に生きている。今日からはお盆だ。日雇いは盆休みなのでスュリの農園で働く。だが、まずはその前に墓から屋敷へご先祖さまを連れて行く。

 


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墓は屋敷の裏だ。ご先祖様も遥々来ている気持ちはしないだろう。

 マンゴーの剪定が終わったので今度はフンギャラを敷く。フンギャラとはフギ(サトウキビ)のギャラ(搾りかす)だ。良い肥料になる。

 去年は魔王と2人で数日かけて頑張った。今年は珊瑚垣の島Sちゃんが手伝ってくれるので少し楽ができる。

 フンギャラは隣のサジョウホ集落の製糖工場から貰ってくる。


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2トン車でビニールハウス傍へフンギャラを運ぶ。後は人力だ。

 昼休みハンモックで眠っていると、暇人トラボルタから内容の特に無いラインが来た。魔王はトラボルタの事をよく思っていないようであまり深入りするなと言う。

 そこでトラボルタの株を上げる計画を立てた。手伝ってもらおう。彼も策に同意し、昼からは4人で頑張った。去年の倍の人数になったのでたった1日で半分程度は終わった。残りは魔王と二人で何とかしよう。


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お盆のお菓子、円形のカタガシと柱状のリュプ。結構美味しく腹も膨れる。

 もちろん魔王は手伝ってくれた二人に日当など出さない。しかし私は奴隷体験しませんか?という誘い方をしていたので反乱はおきない。

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なんという酷い話でしょう。

 

 お頭の兄がハージンを釣ったので食べに来いと言う。トラボルタと共に彼らの行きつけの料理屋へ行った。

 料理屋はデイゴ並木の集落に在り、東の港界隈の人達の溜まり場になっている。私は初めて行ったのだが海がよく見える良い所だった。

 こういう昔ながらの所で魔王の名前を出せば大抵通用するので便利だ。この地域の社交界デビューを果たしまた知り合いを増やした。

 が、翌日酒が抜けると、知らない人達と何か話をした。という程度しか思い出せない。向こうも恐らくそうだろう。次にここで会った時はまた初めまして、お噂はかねがね。から始まる。


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 そして火星人はその奇行の数々によりそこでも有名になっていた。東の方では今や魔王以上に知られているかもしれない。

 火星人は今も私と共に日雇いに行っているのだが、早速馘首寸前だ。彼は人の目から心の機微を読み取ることが出来ない。さらに会話も一方通行なので一緒に働くとイライラする。時々は可哀想にもなる。

 何か出来る作業がないかとあれこれ指示が来るが頑ななので結局は役に立たない。日雇いの社長が殺意のこもった眼差しを向ける事もあるがそんなもの彼には伝わらない。

 この日火星人は本島に在る高級ホテルの面接に行っている。働いている人の話によると皆きちっとしたホテルマンで精鋭揃いらしい。何故よりにもよってレベル1でラストダンジョンへ殴り込むような真似をするのか。しかし当人はもう通勤の手段などに頭を悩ませている。

 皆は落ちる方に賭けた。私のみ冗談で採用される方に賭けた。面接へはちゃんとスーツで行けよ、とアドバイスをした。それから少し面接練習もしてあげよう。だがツナギで行くと言って聞かない。終いには迷惑そうな顔をして、じゃあホテルに電話で聞いてみると言い出した。もう駄目だ。初めから勝てる賭けではなかった。

 こんな風に日々共に働くうち、彼の性格や拘るポイントが少しづつだが見えてきた。

 言葉の裏が読めないなら曖昧な表現を避けてやれば良い。上手くやった時は過剰なぐらい褒めて正解だと伝える。これで少しづつだが出来るようになってきた。

 特に一々褒めるのが良かったように思う。周囲の反応から行動の正解不正解を察することができないからだろう。

 何故私はこんなに優しく接しているのか。実は下心があるのだ。性的な意味では無い。今お頭は火星人に運転を練習させているらしい。そして私は運転が出来るようになるまでに手懐けておき、そのまま横取りし、お抱え運転手にするのだ。

 当然謝礼は都度払う。彼は小遣い稼ぎができ、私は飲み歩く足ができる。両者にとって良い話ではないだろうか。それが彼の役割になればこの島に居場所も出来るだろう。私も彼も住環境が向上する。名付けてテラフォーミング計画。早速明日から顔を見る度にお菓子を遣ろう。

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なんという酷い話でしょう。