辺境にて

南洋幻想の涯て

 夕方、火を眺めていると生意気イケメンのHから遊びに行って良いかとラインが来た。最近彼は週に2、3回は遊びに来る。余程暇らしい。

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 Hは幽霊が怖いので私の所へは怖々やって来る。と書くと私が幽霊のようだが未だそうではない。

 Hは私の住む廃校が怖い。初めは向こうの桟橋までしか来なかった。次に校庭、最近はようやく校長室に入るようになった。動物を手懐けているような気持ちにさせてくれる。

 しかしトイレを怖がって一々校長室前まで立ち小便をしに出て行く。タバコを吸いに行っているものとばかり思っていたがおしっこですと言った。周辺には唐辛子など植えており大変迷惑だから即刻やめさせなければならない。動物を飼っているような気持ちにさせてくれる。

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 Hが初めて校長室に来た夜。しばらく酒を酌み交わしていると、やっぱり無理ですと言った。何が無理かと聞くと怖いと言う。1人では耐えられないと真剣に言うからわざわざ同集落のSちゃんに来て貰った。残念ながら私は人間にカウントされていなかったらしい。

 HはSちゃんとは一度だけ釣り場で出会っていたそうで、あの時の!と2人で盛り上がり始めた。私は釣りに興味がないので一人ぼっちになった。

 所でHは最近、年配の人からトラボルタというあだ名をつけられたそうだ。画像検索してみると確かにそっくりだった。


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 今回トラボルタと参加している日雇いの現場は非常に遠い所である。朝6時半に廃校を出て20分ほど走り、西の港へ行く。そこから7時の定期船で本島に渡り会社の軽トラに乗り換える。さらに西へ1時間ほど走って8時過ぎにようやく現場に着く。


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 泥質の山で旧軍の遺跡などがある。こんな最果てまでは観光客も島民もほとんど来ない。

 

 

 魔王の農園はマンゴーとドラゴンの出荷を迎え繁忙期だ。宿もようやくオープンしたのでヒッピー風の人を二人雇っているが、それでも間に合わない時は私にも日雇いを休んでくれと言う。

 魔王の農業や大工など手伝っても一円もくれないが、まあ仕方ないから休んで手伝う。お気に入りのヒッピー風にすら日当は払っていないようだ。魔王に資本主義は難し過ぎるらしい。甘えん坊の老魔王なんて今更変われない。仕方がない。

 所でヒッピーの人達と言うと何故か魔王は怒る。他に言いようがないがヒッピー風の人達はヒッピーという単語を悪口と捉えているのかもしれない。インドのサリーのような服を着ている特徴が有るため民族系と呼ぶ人もあるが何だか右翼的な響きである。

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 魔王はこうした人達に何故か憧れがあるようで懇意にしている。まあ悪い人達でもないが島の人達からはどうしても異様な連中という目で見られてしまう。

 さらに難しいのが「代々の島民」「移住者」「ヒッピー風」という大まかなグループ内でも対立や上下関係、過去の修復不可能な亀裂などが有るようだ。

 それぞれグループの別なく個人々々は私と仲良くしてくれる良い人ばかりなのだが、そんな親切な人どうしが対立していたりするから困惑する。

 トラボルタは女癖に難があるそうで敵も少なくないようだから、私も知らず評判を落としているのかもしれない。しかしそんな事を一々考えていると友達もできない。

 案外、廃校に潜み集落の人の前だけに現れていた最初期が正しかったのかも知れない。

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