辺境にて

南洋幻想の涯て

マーズピープル

 いつもの山賊のお頭の路上焼肉(公開処刑の暗喩では無い)に呼ばれ参加した。たまにはビール1ケースぐらい持っていけば?と魔王から言われた。尤もだとは思うが金が無い。

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 十月までは釣り好きのお頭の兄が居るので魚もよく食べさせてもらう。ウグスは少し炙って食べる方が美味い。吸血鬼も皮を皿にして焼くのが好い。

 私はいつも手ぶらで行くかわりに雑用をしている。終いには小間使いのあだ名を頂戴した。特に後片付けは重要な仕事だ。最後は皆酔ってそのまま寝てしまうためだ。

 片付けないまま夜中に雨でも降れば割り箸も調味料も炭もビーグルも雨ざらしになる。肉すら出しっぱなしで寝てしまう。

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猟師さんとお頭はステーキ肉を手掴みで食べた。

 

 路上肉は主催のお頭とその兄、ビーグル2頭が固定メンバーで、後は毎回少しづつメンバーが変わる。それは主に通りがかった集落の人々だ。そしてまれに通りがかる観光客にだって声をかける。

 もっともアクトクは行き止まりの集落で、特に観光名所もないため通りがかるような事はない。だから正しくはここへ迷い込んだ観光客、と言うべきだ。

 今回はそうして偶然お頭と知り合いになった青年二人が参加するそうだ。一人は一度路上肉で会ったことのあるユーチューバーで、旅をしながら釣りをしている。

 こういう秘境ではユーチューバーは珍しくないが、その中にあって動画だけで生活できているのはほんの一握りだろう。凄い青年だ。

 もう一人の方は初対面だ。アクトクの隣の集落に住んでいる少し変なお兄さんらしい。いつも歩いて来るそうだ。上記二人はそれぞれ遅れて来るとの事なので先に始めた。

 

 お頭とその兄、兄の友人二名と道で魚を食べていると、お頭が遠くの峠道に変な方のお兄さんを見つけたと主張した。皆で目を凝らしたが、動くものは見えなかった。確かに見た、いや見間違いだと喧々諤々になった。

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 それから数十分経ち、忘れた頃に彼は来た。

 色白でひょろっとしておりスキンヘッドだ。遠い天体からはるばる来たのだろう。少し高めの声でゆっくりと抑揚なく話す。間違いない。

ヤツだ!

 

 少し話をしてみたが前評判通り少々変わった青年のようだ。独特の不思議な雰囲気の核には純朴さもみえる。それから1時間程してユーチューバーも加わり楽しく火を囲んだ。

 マーズピープルはマッチョになりたいのだそうだ。マッチョになって彼女を隣の集落からお姫様抱っこして歩いてくるのが夢らしい。同意を求めていたがよくわからない。

 ピーポーは大学を中退し、三か月前に内地からアクトク隣のヌミシャン集落へ渡って来たと語った。さらに数ヶ月後には母星から彼女も呼び寄せるのだそうだ。

 それから、彼が今現在無職である事もわかった。ここへ来てからの三か月でサトウキビ、真珠の養殖と体力の要るバイトを遍歴して来たそうなので林業の日雇いにも誘ってみた。

 参加したいと言うのでNASA林業幹部と連絡をとり、翌日からお頭に連れて行ってもらう段取りをつけた。お頭は前回の現場から引き続き参加している。森林組合が解散したのでこっちでしばらく食いつなぐのだろう。これから面白くなりそうな予感がするが、私は農業繁忙のためしばらく日雇いには参加できない。残念だ。


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農業は、ドラゴン杭の部材に錆止めを塗りライチを収穫し市場に出してタンカンの防風ネットの支柱を建てドラゴン用のビニールパイプを買いに首都ナディへ車で渡り…

 

 日付の変わる前には一人帰り二人帰り、ついにお頭も屋敷にふらふらと入ったので片付けを始めた。マーズピープルとユーチューバーが手伝ってくれたのですぐ終わった。

 バイクに跨り1km程帰りかけたが、マーズピープルが徒歩で襲来していた事を思い出し、引き返して乗せてやった。喜んで乗ったので好きで歩いて来たわけではないのかもしれない。お礼に今度UFOに乗せてもらおう。

 夜の峠を走る道すがら私は、図らずも今現在ピープルを捕獲状態にあるという事実を発見した。そして山中の謎の檻に押し込むべきか逡巡した。しかし彼はインベーダーではないようだからやめておいた。

 

 二日経って幹部に彼の働きぶりを尋ねてみた。仕事は現在の所今一つのようだがキャラクターはウケたようで、皆からいじられ倒しているそうだ。これからも奇人を見かければどんどん勧誘して林業日雇いに送り込もう。