辺境にて

南洋幻想の涯て

冬のふうけい ⒊

 集落の忘年会へ行く。私は1月からこの集落の廃校へ住み着き始めたので忘年会へは初参加だ。

 今年は故あって区長の家が会場だ。私は本島で伐採だったので1時間遅れになった。

f:id:Chitala:20231231060558j:image
f:id:Chitala:20231231060602j:image

本日のお弁当は林檎とアハウルム。

 もうほぼみんな来ていた。区長の妹さんの手料理を肴に酒を飲む。スュリと違ってここウシキャクは人口が多い。20人は居る。子供も4人もいて賑やかだ。

 1時間ほど飲み、ビンゴ大会が始まった。ウシキャクの年末ビンゴは景品が豪華だと聞いている。夏ごろに景品の希望を聞かれたのでゼルダかPS5と答えたがそれは採用されなかったようだ。高圧洗浄機かアウトドアチェアを狙う。しかし最後の方までビンゴにならなかったのでそれは手に入らなかった。卓球セットをもらった。廃校の体育館に置こう。

f:id:Chitala:20231231054335j:image

 皆酒が入り賑やかだ。私は、いや私だけの特徴でもないが酒が入ると饒舌になる。いらざる事を言う。だから程々にしか飲まないように気をつけていたのだが、久しぶりに赤ワインにありついたのでここから先はどんな話をしたのかは想像するしかない。つまりよく思い出せない。

f:id:Chitala:20231231054501j:image

 しばらく後に「ナンコウ」大会をしようとの機運が盛り上がった。ナンコウはナンコウ台を挟んだ二人が棒をそれぞれ0から3本まで隠し持ち、自分と相手の棒の合計数を当てるという賭け事だ。区長曰く、この南西諸島のみならず、鹿児島や四国でも行われているのだそうだ。海上交易ルートで広まったのだろうか。


f:id:Chitala:20231231054414j:image

f:id:Chitala:20231231054421j:image

f:id:Chitala:20231231054424j:image

f:id:Chitala:20231231054417j:image

老いも若きも楽しんだ。子どもたちが強かった。お金は賭けていない。

 賭け事だから隠語も色々ある。特に数を言うときはパッと計算されにくいよう隠語を用いる。例えば「犬のシバリ」シバリはおしっこのことで、4本足の犬がそれをするときは片足を挙げ3本足になる。だから3だ。「兄弟」と言えば自分と相手は同じ数という意味だ。自分の数が推測されない。それから…忘れてしまった。もっと沢山聞いたのだが。

f:id:Chitala:20231231054632j:image

卓球もしたらしい。

 …気が付けば3人しか居ない。区長が時計を見て、もう3時過ぎとるぞ!と言ったので帰ったのは憶えている。

 

f:id:Chitala:20231231054840j:image

 翌日はまた林業の伐採だ。フラフラになりながら海を渡って現場へ行く。初めてタイヤショベルを少し動かした。楽しい。一日働きまた海を渡る。帰りに畑へ寄る。最近は雨が降らないので皆喉を渇かせていると思う。今夕はクェグィに水を遣った。


f:id:Chitala:20231229140307j:image

f:id:Chitala:20231229140312j:image

シャワーヘッドを買った。水遣りがしやすくなった。

f:id:Chitala:20231229141839j:image

今年最後の現場は悲しい伝説のあるカンティメの地だった。

 そして昨日、ようやくT産業の伐採も終わった。

f:id:Chitala:20231231055000j:image

右手にブロワー左手にフォークの二刀流。

f:id:Chitala:20231231060440j:image

 途中で崖下にフォークを落とした。拾いに降りた先は、周囲にゴミが散乱していた。上から投げ落とされたものだろう。そこでコールマンの椅子を見つけた。


f:id:Chitala:20231231055223j:image

f:id:Chitala:20231231055227j:image

 最後の給料は出づらを計算して夕方になると言われたが、もう船が出るので受け取らず帰って来た。私の給料はパチンコ好きの幹部が預かっておいてくれるそうだ。倍にしてくれると言ったので、倍になるまで受け取らないようにしよう。


f:id:Chitala:20231229141216j:image

f:id:Chitala:20231229141219j:image

寡黙な幹部が小さい野生の柿を取ってくれた。口に入れると確かに甘い柿の味だったが、それから時間差で口中に渋みが広がりなかなか治らない地獄フルーツだった。

 スュリで拾った椅子を洗う。錆びて脚が開かなかったので潤滑油をスプレーし、整備した。


f:id:Chitala:20231231055711j:image

f:id:Chitala:20231231055707j:image

上等上等。

 

f:id:Chitala:20231231045159j:image

 夜。一人祝杯をあげようと赤ワインを持って校長室屋上へ登る。ワインは数日前、アマゾンの人と冷やかした酒屋で見つけたものだ。1.5Lというのが一晩で飲むのにちょうど良いので、仕事納めの日のために買っておいた。

 校長室屋上に行くにはまず校舎のハシゴを上り校舎屋上へ出て、そこから校長室屋上に飛び移らなければならない。だが行きは良い、帰りが厄介なのだ。

f:id:Chitala:20231229151527p:image

 校長室は校舎より高さが低いので戻るには斜め上に跳び上がらなければ墜落する。この間も校長室屋上で海を観ながら焼酎を飲み、酔いが覚めてくるまで帰れなくなった。

 だから今日は魔王屋敷から星見ハシゴを借りた。まずは藪で拾った椅子を屋上に投げ上げる。そしてハシゴをかけ校長室屋上に上った。

f:id:Chitala:20231231045135j:image

 ワインの蓋をねじ開け、ラッパに呷る。

 魔王は星を見るのが好きだ。私は夜空を眺めるのは好きではない。綺麗だとは思うがしばらく見ていると段々と恐ろしくなる。知ることのかなわない果てしない時間の終わり。さらにその先は。

 今夜は曇っているので私は薄雲に守られている。だからその優しい色のヴェール越しに星を眺めることができる。

 あとたった半世紀もすればスュリ集落には私しかいなくなるだろう。私は土地や屋敷を継ぎに来たつもりでいたが、本当は家を看取りに来たのだ。そしてそれは同時に集落の看取りでもある。その日も星は同じように冷たく見下ろしているだろうか。いや、人家の灯りが一切消えた後は…あっ!

f:id:Chitala:20231231044641j:image

 

 梯子が音を立てて倒れ、また帰れなくなった…。

 星は冷たく輝き私を見下ろしている…どうせ当分降りられないのだ。今目が合った星に願い事でもしよう。

 

 辺境より、皆様の一年が実り多きものになることを祈って。

 

冬のふうけい 終