辺境にて

南洋幻想の涯て

 端材で何か作ったら?と勧められた。もう箱を作ったけど酷い出来でした。と答えた。

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地面に埋めればトラップとして使えそうだ。

 珊瑚垣の島Sちゃんによって、校長室改修工事は無事に終わった。その大工道具の引き上げを手伝っている時の会話だ。

 まだ端材が有るので次は踏み台を作りたかったが、今度は設計図をきちんと考えなければならない。歪んで釘の飛び出した踏み台が出来るのは目に見えている。

 Sちゃんはそんな私の思考を読み取ったように、まだ何か作るなら手伝うよ。と言ってくれた。だから大工道具達はもうしばらく廃校に滞在する事になった。私の中でSちゃんは棟梁に格上げされた。

 

 翌朝、マガンの罠を確認したが今日も空振りだ。マガンの罠はスュリの屋敷の小屋奥に眠っていた。破れを補修し使う。


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先にベンガル嬢がかかりそうだ。

 それから畑に行きタンカンを植えた。魔王も木工棟梁Sちゃんも手伝ってくれたので植え付けは2日で済んだ。

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 全部で92本必要だったが5本足りない。そのうち海を渡ってクニャに行った時に種苗屋で買ってこよう。

 3時過ぎには廃校へ帰り、木工棟梁に踏み台を作ってもらう。設計図をまた描いてきてくれていた。端材を使った踏み台はみるみるうちに完成した。更に使用されなかった端材の中の端材でゴミ箱まで作ってくれた。こんなに何でも作れたらさぞ面白いだろう。


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 また木工棟梁は校庭管理も夫婦で手伝ってくれた。貰った焼き芋が生焼けだと言うので刈り草を焼くのに突っ込んでおいた。美味かった。木工棟梁は木工芋焼棟梁に昇進した。


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 こうして何でも手伝ってくれる上、ほぼ毎晩夕食に誘ってくれる木工芋焼棟梁。彼の方から珍しく手伝って欲しいと言う依頼が来たのでもちろん引き受けた。内容はシシの罠の設置と、首尾よくシシが罠にかかった場合の解体手伝いだ。猟師の免許を持っていると聞いてはいたが、遂に猟も始めるようだ。

 木工芋焼棟梁罠師はまだ一度も獲物をとったことがない初心者だ。初めは私の住む廃校の校庭を荒らすシシを捕る事にした。しかし区長に許可を得に行ったところ、まずウチの畑に出るシシを捕ってくれと言われ、猟場は区長の畑へ変更になった。夕方、木工芋焼棟梁罠師と区長の畑に向かう。

 シシの通り道に見当をつけ、準備をする。今は簡易な、ほぼ埋めるだけの罠が有るそうだが、木工芋焼棟梁罠師は島式の罠を用いる。

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ほぼ埋めるだけの罠ならうちにも有る。

 穴を掘りバネを木に括る。アイスの棒やシシ用のスキー板のような木片を袋から出す。夏休みや冬休みの思い出でシシを誘き寄せるのだろう。そこで木工芋焼棟梁罠師の手が止まった。罠の掛け方を忘れてしまったそうだ…。

 木工芋焼棟梁罠師(初心者)が家で仕掛けた時はできたのにな、としきりに首を捻るので、昨日の事なのに忘れてしまったんですか?と聞くと、いや2ヶ月前。と返ってきた。


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 私も参加してああでも無いこうでも無いとやってみたが、そもそも私はシシの罠自体見るのが初めてだ。出来るわけがない。しまいには木工芋焼棟梁罠師(初心者)は手を滑らせバネを作動させた。バネの先に結わえてある木片が私の指を打った。その痛みで木工芋焼棟梁罠師(初心者)の罠師と、ついでに芋焼の部分が飛んでいってしまった。

 明日、木工棟梁(初心者)の罠の師匠に来てもらう事にし解散した。

 

 翌朝もスュリへ向かい川底を覗く。マガンは今朝も留守のようだ。罠の中では餌が一人留守番をしている。

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 次は畑。家庭菜園を見回る。マルチ下に芽吹いた芋を触診で探し、破って出してやる。

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ヨシ!

 それから防風林の植え付けだ。ビニールハウスから去年種蒔きをし育てたクェグィを出す。一年保育をした彼らはもう温室は卒園だ。と言ってもまだまだ小さい苗なので、防風林の用を為すのは先の事だ。


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 昼からは木工棟梁(初心者)と廃校で待ち合わせ、彼の師匠の到着を待った。

 この罠の師匠の弟とは何度も林業で一緒に伐採をしている。そして私に小型一升瓶とあだ名をつけている。私がチビで酒飲みだからだそうだ。しかしその彼も酒飲みだと聞く。ついでに身長も私と大差ない。

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 やがて罠の師匠が到着した。初対面だ。弟によく似ている。兄弟2人ともずんぐりと毛深くシシ、または熊に似ている。ハブ捕り名人の山賊のお頭も少しハブみたいな顔容であるため、祟りか何かで獲物に似ていくのだろう。私もマガンばかり狙っていると額に魔眼が開眼してしまうだろう。悪くない。

 昨日の罠の場所へ罠の師匠を案内した。しかしここはシシの通り道ではないと言う。しかも掘ってある穴は縦長だが正解は横長に掘るそうだ。兎に角指摘だらけだった。

 罠の師匠と木工棟梁(初心者)と私の3人は、シシの通り道を探して移動を始めた。集落を抜けて川沿いを登って行き、聖域への道途中でようやくシシの道を見つけ、そこへ仕掛ける事になった。区長の畑からは離れてしまった。

 木工棟梁(初心者)は今一度罠の掛け方を習う。私も横から覗く。だが穴を掘った所で、杭を忘れたと2人は行ってしまった。独り待つあいだ退屈なのでそのまま森に入り、偽マツタケを探す。

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林業では自然のものを森、人の植えたものを林と言う。

 キノコは幾つも見つけたが食用かは判らない。偽マツタケは見つからない。


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 額の魔眼も開いてみたが、左右の目にしかコンタクトレンズを装用していないためよく見えなかった。しかし何故かギブ(シャコガイ)を見つけた。

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 2人の声が聞こえてきたので罠の設置場所に戻る。それからは手際良く罠が組み立てられていくのを見物した。


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 木工棟梁(初心者)もすっかり仕組みを思い出したようだ。初心者も卒業だ。明日から木工棟梁は毎日罠を見に来なければならない。罠注意の札をかけ、今日は解散だ。

 

 日没までまだ時間がある。バイクに跨がりスュリの我が小さき領地を巡察に出かけた。

 幼ドラゴンは元気にしている。タンカンは植え付けの時に葉も少し散りなんだか頼りない。クェグィに至ってはそよ風でも倒れそうで、これがいつか台風に立ち向かうとはなかなか信じられない。

 弱く小さい彼らが大きく育ち、私を助けてくれるのはまだ先の事だ。タンカン、そしてこのクェグィの年輪はそのまま私の農業歴である。共に成長していこ……

 近視の魔眼に何か蠢くものが映る。なんとピンク色のバッタだ!しゃがんでよく見てみる。えっ何これ?細い枯れ草の下敷きになってもがいている。弱っ!

 枯れ草をどけてやると跳ねたが着地に失敗して転倒した。虫が転ぶのなんて初めてみたかもしれない。そのまままた草に挟まってもがくので救助した。ピンクのバッタは跳ねるのは諦めて這い始めた。動きが哺乳類的だ。なんだか知ってはいけないものに遭遇してしまったような気がする…。

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何かがバッタに化けているのでは…。

 バッタを追っていると夏休みの思い出がよみがえる。捕まえて飼育しようと思い伸ばした手をすんでの所でとめる。思い出を餌に人を捕える罠かも知れない…。ガティンを釣るワームだって自然界ではあり得ない色をしている。