辺境にて

南洋幻想の涯て

遥かなる釣具屋

 土曜日。日雇いの昼休み。海を眺める防波堤の上に座り、弁当箱を開ける。白米の上に敷かれた鰹節の上で煮干しが昼寝をしている。先日釣りを覚えたのでこの貧困弁当ももう少しマシなものになる筈だ。

 


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 明日釣具屋へ行き、釣具一式を揃えよう。この離島には釣具屋なんて無いので海を渡らなければならない。

 また自分では何を買えば良いのかわからないため、トラボルタについて来てもらうことにした。

 日曜日は定期船が出ないのでフェリーだ。トラボルタは東の方に住んでいるので東の港イキンマで合流し、最初の便で渡ろう。


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土曜夜、私のふたいとこと称する人物が来ていたので、スュリで魔王主催の豪華な晩餐にありついた。そんな親戚が居るとは知らなかったが。

 日曜日、スュリに用事があるので早めに廃校を出た。昨夜は帰りが遅かったので、いつもの渡り廊下ではなく校庭の隅、校長室すぐ横にバイクを停めておいた。

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いつもは渡り廊下。

 渡り廊下には屋根が有るのだが、そこに停めると少し藪を歩く事になる。夜の藪には毒蛇達が潜んでいるかもしれないので危険だ。だから暗くなってから帰校した時は大抵校庭の校長室付近へ停めている。

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遅くなれば校庭の校長室傍。

 校庭に停められた私のバイクは夜露に濡れている。シートの露を手で払い跨りセルを回す。何の反応もない。

 濡らしたのでストライキらしい。宥めすかしながらセルを回したり謝ってみたりするも機嫌はなおらない。キックでも頑張ったが疲労しただけだった。スュリの用事は諦め、トラボルタに迎えに来てもらう事にした。用事の分早く出たため、今なら拾いに来てもらっても十分間に合う。不幸中の幸いだ。


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待っていても退屈なので歩いて向かう。遠くに今出発した廃校が見えている。

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 東の港。いつもの定期船の老船長が居る。休みだから本島へパチンコをしに行くのだそうだ。トラボルタの交渉により船を出すのを手伝ってタダで乗せてもらう事になった。今日はついている。

 機関?に水を入れたりロープを外したりした。


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 海の上で我々が乗る筈だったフェリーと行きちがう。


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 早く着きすぎた。することも無いので釣具屋へ行ってみる。

 9時からだと思っていた釣具屋は開いていた。何と6時30分から開いているそうだ。トラボルタの助言を受けつつ釣具を選んでもらう。5000円ぐらいの竿と安いリール、それから糸やら仕掛けやら言われるがままだ。全部で13000円程だった。たくさん釣ろう。

 そして港の喫茶店で500円のレトロな朝食を摂る。


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 次のフェリーまで数時間ある。暇つぶしにドライブをしたりリールの糸を捨てて今買ったものに巻き替えたり時間を潰す。


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 なぜ初期の糸は駄目なのか、この購入した糸はどう良いのか説明があったが完全に忘れてしまった。

 ようやく11時になった。フェリーまで1時間をきったので昼食にする。ついて来てくれたお礼に朝と昼の食事は奢った。

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港町クニャにも美味しい店は幾つもある。ここもそのひとつだ。いつかちゃんこを食べてみたいが、量が多そうでまだ試さないでいる。

 二人ともチキンカツ定食にトンカツ定食と、揚げ物を頼んだので出てくるまでに少し時間がかかってしまった。何とフェリーに乗り遅れてしまった。現在11時40分。次のフェリーは16時だ。

 またドライブやら仕掛けの組み立てやらしてみたが全く時間が経たない。仕方がないので船を貸し切って帰った。トラボルタが無理矢理船賃を出してくれたので、朝昼を奢ったのは無意味になってしまった。


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定期船貸切3000円。

 折角道具を買ったので、真っ直ぐ帰らずに少し釣りをしてから帰る事にした。

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 場所は、この間探しに行った消滅した集落へ行く途中の岩場だ。


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 巨石を回り込み投げる。ここでは針が沈みきると岩に引っ掛かるので、着水後早めに糸を巻くのだそうだ。そんな難しい事を急に言われても困る。

 風のせいか腕のせいか竿を振ると針は真っ直ぐ右のトラボルタの方へ飛んで行く。この針には追尾機能があるらしい。トラボルタはまた伏せるようになった。可哀想に。

 そして5、6投目で何かが食いついた。右へ左へ泳いだのちに動かなくなった。糸を目でたどると眼前の岩に繋がっている。この辺りの岩は右へ左へ泳ぐようだ。世の中知らない事ばかりだ。針をひとつ失った。

 スュリへ寄ってもらいバイクの整備工具を持ち帰る。魔王が使っていない方のクーラーボックスを呉れた。


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 廃校でトラボルタに礼を言って別れ、バイクのバッテリーを充電してオイルを交換した。ようやく機嫌が治ったので安心し、夜まで昼寝をした。


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 夕食には一昨日釣った私の釣魚第一号、ギンガメアジを食べる。とても美味しかった。食べ終わる頃、トラボルタから早速釣りの誘いが来た。廃校傍の桟橋だ。竿と焼酎を手に勇み出た。

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 今夜も星が綺麗だ。釣果は捗々しくなく1匹づつ釣り上げただけで消灯してしまった。私は30センチ程のガティンを釣り上げた。それから飲めば飲むほど肩の力が抜けるらしく上手に針を飛ばせるようになった。酔拳と言われた。


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ガティン以外では船を釣った。


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 最後は校長室で一杯やる。もちろん肴は今釣ったガティンだ。トラボルタはひと眠りし、朝方帰った。歯軋りがうるさい。釣り針に食いついた泳ぐ岩が、針を噛んで磨り潰す夢をみる。

 

 

 月曜日。日雇いの昼休み、海の近くのバス待合室で弁当箱の蓋を開ける。白米の上には首のないガティンが眠っている。今日はとても豪華だ。

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R.I.P.