辺境にて

南洋幻想の涯て

辺境雑貨店

 製糖は夏の間は休業だ。暑い時期は糖度がのらず、甘い砂糖ができないそうだ。だから本当は5月までには終わらせたかったらしいがもうすぐ6月になる。大変な遅れだ。

f:id:Chitala:20240528151304j:image

 6月は慣れた林業の方から声がかかっている。アンキャバ戦跡から西の港までの伐採が始まるのだ。だから5月は黒糖工場、6月からは伐採と予定を立てていた。

 大きめの伐採になると、トラボルタのいるS崎さんグループや山賊のお頭なんかも来るはずだ。他にも久しぶりの人から知らない人まで色々来る。そんな皆で毎週末は宴会だ。仕事という名のお祭りだ。今年も賑やかな夏が始まる…はずだった。

f:id:Chitala:20240528151352j:image

 しかしウギ(サトウキビ)仕事が難航しているらしいのを会話から悟ってしまった。特にウギシ(サトウキビ刈り)は私以外だと4名しかいない。

 内訳は、60代半ばぐらいのオーナー姉妹、同じく魔王より一歳年上、70前の男性1名、そして70代の男性1名だ。時々オーナー姉妹の母、80代も手伝う。みんな信じられないぐらい働くがそれでも暑い中大変なはずだ。

 私は、手斧の振るい方一つとっても洗練とは程遠いが、力仕事ならまあ役には立っているだろう。だから、6月になったので伐採に行きますお世話になりました!とも言えない。夏の伐祭は延期だ。

 

 などとやっているうちに、私を雇うフレンドリーな元幹部から連絡が来た。今回の伐採では私を雇えないという。それは大元の会社からの通達だそうだ。これでウギ仕事が終われば現金収入のあるバイトが見つかるまで無収入だ。つまり夏休みだ。


f:id:Chitala:20240528151616j:image

f:id:Chitala:20240528151621j:image

夏休みの扱いなら慣れている。

 所で今回の元請けからの流れは次のとおりである。

 町(偉い)→A興発(元請け)→山賊のお頭(下請け)→元幹部(遊離分子)→私(不確定性原理)

 下へ行くほど身分が不安定である。T社長の生前は社長が下請けだった。だからもう少し身分が高かったのかもしれないが、私の仕事内容も日当も同じなので影響はない。いずれ植物プランクトンだ。同じくトラボルタ(超ひも理論)も断られ今は酒と釣りばかりのようだ。


f:id:Chitala:20240528151828j:image

f:id:Chitala:20240528151825j:image

トラボルタと釣り。仕事が無い時ほど魚がたくさん釣れたりする。世の中うまくできている。

 ちなみに今回雇えない理由は、元請け自体に仕事がなく、社員たちを遊ばせるわけにもいかないからだそうだ。それじゃ仕方が無い。

 

 ウギの仕事帰りに畑へ寄る。魔王がいる。雑談をする中で次のバイトが無くなった話もした。魔王は意外にショックを受けたようで、お前は畑の兼業ではなく最初から安定した仕事を探せばよかったなと、珍しく畑信仰を棄教しようとした。

 私は天邪鬼なので考えなしに逆らった。ここまで広げてしまったのだからもう今更やめることはできない、それに老後まで考えると、畑には定年が無いので80代でも働ける。そういった事を言ったと思う。ネガティブな意見に逆らったため珍しくポジティブだ。たんかんの草刈りをして帰った。

f:id:Chitala:20240528152031j:image

 

 アマゾンの人に誘われて遺品整理へ行った。遺品整理と言っても亡くなったのは我々の親族ではない。我々とは会ったことも、その存在すらも知らない夫婦2名だ。彼らが相次いで亡くなり住家は空き家になった。そしてその甥とアマゾンの人が知り合いで、今度家を片付けるからその前にいる物持って行って良いよ、と声がかかったのだ。

 こういうことは時々ある。知らない人達とは言え、壁のカレンダーや家族の写真などが切ない。


f:id:Chitala:20240528152203j:image

f:id:Chitala:20240528152158j:image

f:id:Chitala:20240528152154j:image

f:id:Chitala:20240528152232j:image

f:id:Chitala:20240528152239j:image

f:id:Chitala:20240528152246j:image

 私は食器類と、ウギシに使う手斧、特殊な鎌を拾った。もう一軒解体中の家にも寄って木材を拾い、寝室の壁に本棚を作った。かなり重い木の梯子も拾った。海へ降りる梯子にしよう。

 

 ウギシのバイトへ行く。

 拾った手斧をグラインダーで研いでもらう。どこで手に入れたの?と聞かれたのでxxxxのおじ夫婦の家、と答えた。黒糖工場の姉妹はその夫婦を知っていた。奥さんの方だったか、ウギシのバイトにあちこち行っていたそうだ。私と似たような生き方をしていたのだろうか。左手の鎌でウギをかき分け右手の手斧で叩き切る。再び陽の目を浴び、かつてのように働き始めた道具。強い陽射しの下黙々と刈り、運び集める。

f:id:Chitala:20240528152410j:image

 

 ほどなく梅雨入りし、台風が来た。台風が去るまで何の仕事もできない。果物をネットで売る事を考えた。大変そうだから敬遠していたのだが、そろそろやってみるべきかもしれない。無料でそういったことができるサービスを探してみよう。

 それに簡単な木工を覚えたので、小さな椅子や本立てでも作れば売れるかも知れない。周囲を探せば商品はまだあるはずだ。辺境の雑貨店だ。魔除けの貝、誰かの遺品、ビロード、流木、動物の牙、頭骨。

 酷い品揃えだ。

f:id:Chitala:20240528152742j:image
f:id:Chitala:20240528152730j:image
f:id:Chitala:20240528152837j:image
f:id:Chitala:20240528152843j:image