辺境にて

南洋幻想の涯て

冬のふうけい ⒈

 タンカンの植え付けも一段落したのでまた林業の草刈りへ復帰した。

 離島での現場が終わってしまったので今は本島側に渡っている。折角渡るのだからクニャの種苗店でタンカンの不足分5本を購入した。

 タンカンに海を見せてやろうと思い、まっすぐスュリへ向かわず海沿いを走った。余計な事をしたので風で葉っぱが少し散った。


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 さらに弛んでいたチェーンがはずれて暴れ、愛車のサバの味噌煮のような部分が欠けてしまった。

 

 サバと言えば、夜のなけなしの自由時間で食料を得ようと桟橋へも通っている。しかしいまだにイカは釣れず、ただ餌木を失う一方である。

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高い。

 それから、一年頑張ったからというのを言い訳に、アウトドア向きの頑丈な腕時計を購入した。高価だったので半額の中古品を購入した。どうせ農林業下のハードな環境で使うのだから綺麗なものでなくても良い。

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高い。

 私は腕時計をつける習慣がなかったが、特に違和感もなく腕に馴染んでいる。良い買い物をした。私のHPらしき表示がある。死亡すればやはりゼロになるのだろうか?残機は表示されていない。

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 また食料確保の話に戻るが、ガティン新月イカは満月に釣れるそうだからカスタマイズで月齢を表示するようにした。この時計のサーフモデルを購入すれば潮汐も表示できたのだが、サーファーでもないのにそんなものをつけるのは恥ずかしいと思い、やめた。

 こうして釣りの準備は万端なのだが、本島へ通っているのだから魚を買った方が早いという事に気が付き、結局桟橋通いの頻度は下がってしまった。

 釣りがうまくいかないので弁当はまた貧相なものに戻った。

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社長のみならず周囲の人までおかずをくれた。焼き鳥、竜田揚げ、最後にコンビニチキンが飛んで来る冬の午後。鶏の供養塔。

 

 それから、タンカンには行灯というものを作ってつけた。風や寒さから保護できるのだそうだ。甘やかしていこう。


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 ドラゴンにタンカンと自分の畑を手に入れたので農業もちょっとやる気が出てきた。それが伝わったのか魔王も急にうるさくなくなった。なんとたまに笑顔すら見せる。冗談を言う事すらある。そう言えば魔王は急に屋敷内や小屋など整理して綺麗にし始めた。もしかしてそろそろ…。


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林業帰りに畑に寄る。30分程石を拾ったり水をやったりしているだけなのだが、周囲からはとても頑張っているようにみえるらしい。偉い偉いと言われる。

 魔王というのは去年の農大での研修中に思いついたあだ名だ。教授達は栽培の歴史の浅いドラゴンはあまりお勧めしない風だった。作るのは良いが売り方まで考えているのかと聞かれると、あの禍々しい見た目と、拍子抜けするような薄い味では確かに人気が出そうではないなと思った。


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去年はドラゴンちゃんプロデュース企画としてマンゴーと抱き合わせ販売をした。ひきたつ禍々しさ。

 寮に帰り、魔王にドラゴンはやめて人気のマンゴーを増やそうと電話をしたのだが、お前にはドラゴンの良さが解らんだけだと怒り始めた。夜、ファミレスで酔っ払い、学生達に愚痴をこぼした。ドラゴン殖やせ殖やせって魔王かよ。と言った。これが魔王のあだ名の由来である。

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 最後の日、学生達は寄せ書きをくれた。魔王城でも頑張って下さいと書かれていた。

 

 そんな魔王にはロマンチストな一面もある。夜空を眺めるのが好きなのだ。10年ほど前には海の前に星見櫓を作り、その上で眠ったりしていた。しかしそれは台風で倒壊してしまった。

 その後は庭での宴会で星を観るに留まっていたのだが、最近事務室小屋に梯子をかけ、屋根に登れるようにした。ちなみにその梯子は先月私に呉れたものである。要らないと言うのに無理に置いて行き、ようやく使い始めたら今度は勝手に持って帰られた。

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 そして宴会のたびに星を観よう星を観ようと言う。しかし私はせいぜい5分も眺めれば充分であるから屋根からすぐ降りようとする。魔王はお前には風情が分からないと非難する。

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 だが私は仰向けに寝て星を眺めるのが好きではない。あまり真剣に観ると莫大な時間や空間を感じて不安になる。それは夜の海や深い川などに感じる不気味さにも少しだけ似ている。夜空はたまに見上げるぐらいで充分だ。地に足がついていれば少しは安心できる。仰向けは正対してしまうのでだめだ。

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