辺境にて

南洋幻想の涯て

魔王チート使用

 本日で最後に休日が観測されてから83日目、もう休日はこのあたりには居ないのかもしれない。

 魔王のみならず昔の人は休日らしい休日をとらない事が多いと聞いた。その代わりに分刻みであくせく働く、といった事はしないのでストレスを溜めるでもなく過ごしている様だ。まあオンとオフという概念がないのだろう。

 しかし魔王が働くと私も徴兵される。内地で多趣味だった私は休日が無いのは甚だストレスが溜まる。朝6時に起きて働き夕方6時台に眠るだけの機械に過ぎない。

 

 まあそれは兎も角、今日はそんな不休の魔王が校庭管理を手伝ってくれる事になった。というかどうせ断った所で強引に来る。独善魔王燃料代等諸々込み一万円。

 

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魔王から逃れて廃校にたどり着いたのに魔王を雇用できた。バグだろうか。

 

 今日の日直のしごと、校庭管理。

 

 ところで校庭の管理と引き換えに校長室に住むと最初の記事に記したが、詳細を説明すると校庭は財産管理課、私の居住している校長室は教育委員会とそれぞれ管轄が違うので、教育委員会に家賃を支払って財産管理課から校庭の管理費を貰い実質0円!というスマホの契約プランみたいなことになっている。

 

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 これからついに謎の建物へ向かう。慣れない背負い式で困難な道のりだったが何とか建物までの草を刈り払った。

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 何となく不気味に感じていた壁の人間の絵も藪がなくなれば爽やかにラジオ体操でもしているように見える。

 

 …建物は校舎だった。


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 図書室が開放された。いつの日か休日が再観測された時はここで読書をしよう。


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 音楽室が開放された。いつの日か休日が再観測された時はここで楽器の練習をしよう。

 

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ウシノフグリ、ほろ苦く草の香り。あまり美味しくない。

 


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 校舎裏を奥へ刈り進むと池が出てきた。蓮はまだ生きている様である。覆い被さっている柑橘類が水面に落ちて柚子風呂の様である。初夏の楽しみができた。ちゃんと世話をしてあげよう。

 

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シークヮーサー?酸っぱい。

 

 私がこっそりと廃墟探検をして遊んでいるうちに魔王は他の所を一人で全て刈ってしまった。速い。やはり全体攻撃だろうか。

 

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 最後に刈った草を集めて軽トラで校庭の端に運んだ。陽はもう傾いてきている。金色の西陽に染まる草の山のある風景。印象派の絵画の様で美しい。積載した草のひと山と共に荷台で揺られながらふと思った。

 この美しい風景でもし自由に暮らせたらどんなに楽しいだろう。時には休暇をとって旅行などにも行けたらどんなに良いだろうか。だが今は理不尽にも島から出ることを禁じられている。

 魔王の屋敷から距離のあるこの廃校を拠点に、少しづつ子離れをしてもらわなければ。それに適当な距離をとった方がお互い良い関係を築ける筈だ。昨日の鋸からの助言を思い出す。

 そしてまた、こうも思った。五万円で請け負った仕事を一万円で雇用した魔王がほぼ一人でやってしまった事は黙っておこうと。

 

 魔王の刈った草が校庭で金色に美しく輝いている。