辺境にて

南洋幻想の涯て

二つの夜

 日雇いは、いつもの日雇い(T産業)とは別会社(H建設)からも声がかかっている。月曜日から10日程の仕事だ。

 今週末の二日だけT産業に行くが来週からはH建設に参加する。そして終わればまたT産業に戻る。ややこしく掛け持ちをするのは色々な所に顔を売るためだ。

 仕事も増えるし人付き合いの幅が広がるのは純粋に楽しい。田舎の娯楽はそういうところにあるのかも知れない。だが人間関係の複雑さも見え隠れしているので火傷には重々気をつけよう。

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 ドラゴンの花を持って帰ったRさんが、オーシャンリゾートな宿の記念日に招いてくれた。

 料理はお互い持ち寄りだと言うので仕事から帰ってすぐボルシチを急造し、集落のSちゃんに車で運んでもらった。バイクではスープを運べないことに途中で気がついたためだ。とても冴えている。一杯分とりわけてSちゃんにもプレゼントした。

 Sちゃんというのは元々は珊瑚垣の島の人で、テレビ局定年後は私のいる集落と内地を行ったり来たりしている人物である。私の親ぐらいの年齢だが親しみを込めてSちゃんと呼んでいる。またもうすぐ義弟さんも遊びにくる。

 ドラゴンの白い花を赤いボルシチに散らして飾ることも思いついたが、魔王の目を盗み彼のドラゴン園に侵入し花を持ち帰るクエストの手間を考え辞めた。


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 海辺の宿は、エキゾチックな雰囲気にエキゾチックな料理、海外に来ているようだった。いつもの路上肉とは違い、ドレスシャツにループタイという出で立ちで参加した。ちなみに路上肉ではいつも作業服だ。

 次の現場の日雇いメンバーも来ていたので庭で歓談した。良い気晴らしになったので行ってよかった。


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最後に洗い物を手伝ったら少し残っていた夜光貝のココナッツカレーを分けてくれた。空になったボルシチの鍋に入れて帰る。

 

 海を渡りT産業の日雇いに行く。マーズピープルは評判通り、あまり気が利いているとは言えない。休憩中は奇行に走るが本人は大真面目らしく笑われるとムッとした顔をする。特に陽キャな若者2人が苦手のようだ。

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おかしな事をするのに笑うと怒る。酷いわがままである。なんだか理不尽だ。

 山賊のお頭も相変わらず少し変だった。変人たちと共に伐採は進む。

 二日間だけ参加したT産業の本島側の仕事を終え、未だに受け取っていない前回の給料を皆で待つ。しかし幹部H兄ぃが何度電話をしてもT社長は電話に出ない。また飲んでいるのだろう。給料を管理している本日欠席の幹部Sさんも出ない。またパチンコだろう。みんなの給料をパチンコにつぎ込んだんじゃないかなどという話まで出た。

 同じ離島側に住むイケメンH君が、今なら帰りのフェリーに間に合いますよと言うので助手席に飛び乗り一緒に帰った。二週間は本島へ来ないからしばらくは給料を受け取れない。ちなみにH君は親玉が別系統なのでそっちから毎月1日にきちっと給料を貰っているのだそうだ。

 帰りのフェリーで暴れる(マーズピープルのあだ名)の奇態について話をしていると山賊のお頭がやって来て我々二人を路上肉に誘った。火星野郎も船に乗っているはずだが我々を避けて近づいては来ない。

 お頭達変人子弟は給料を待ちもっと遅い船で帰るのかと思っていたが、どうにかフェリーに間に合ったようだ。そしてギリギリまで待っていても結局給料は貰えなかったらしい。

 路上のバーベキューに興味を示していた滝の集落の大男Mさんも誘ってアクトクへ向かう。大男のMさんが車を出してくれたので今夜は私も酒を飲むことができる。

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 お頭と兄、釣りユーチューバーとH君が始めていた。お頭が火星人をあまりからかってやるなよと言った。傷ついているのだそうだ。じゃあおかしな事をしなければ良いのに。

 私とH君は理不尽なものを感じて抗議した。そのうち火星人がまた徒歩でやってきた。何故か海の方からだ。H君と私が星間戦争を仕掛けお頭が宥めるというこれまでにない荒れた出だしとなった。特に先輩達が雑用をしていても火星人は全く何もしないという辺りが争点になった。むかつく。

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 Hはビール、私は焼酎をたくさん飲んだ。調子に乗って紙パックからラッパのみをした。気がつけばHは火星人に肉の切り方を教えている。異常に考えを変えられない火星人が僅かに譲歩の姿勢を見せた事と、お頭が責任を持って仕事を教えると言うので和解したのだ。酔いすぎて和解のハグなんかしている。

 Hから島の怪談話をいくつか聞いた。お盆の頃にまとめて記したい。

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 もはや泥酔手前のお頭は火星人に延々と意味不明の説教をしている。この子弟には下着を穿いていないという変な共通点がある。火星人もよく慕っているし怪人同士波長が合うのだろう。そしてホモ田という知り合いの男がHと火星人を気に入っているから今度合わせると最後に訳のわからない声明を発してお頭は寝た。星間戦争エピソード2だろうか。

 

 午前2時、気が付けば私とシラフの火星人だけが起きている。火星人にアクトクの先に廃道があると話をしたら興味を持ったので、2人で深夜の探検に出かけた。もう変なあだ名で呼ぶのはやめてあげよう。


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 アクトクに戻るとMさんが起きたので、火星人に別れを告げ、廃校へ送ってもらった。校長室でMさんとまた少し飲んだが、午前4時ごろには座って居られなくなり、とうとう私も潰れた。