初めて見る火星人の棲家は私の校長室に瓜二つだった。ドアの横にある用途のわからないブロック塀までコピーしてある。絶対に火星の技術で複製されたものだ。中から私のそっくりさんが出て来たらどうしよう。緊張感が走る。
謎の小さな塀。ドアストッパー?私は洗った靴を干すのに利用しているが風ですぐに落ち靴は泥まみれになる。
トラボルタが子犬のようにはしゃいで呼びに行ったが留守のようだ。私も家の中を覗いてみた。廊下に靴やヘルメットが散らかっていたり蚊取り線香があまりに狭い間隔で置いてあったりまあ予想通り色々変だった。
何よりもドアの質感がおかしい。しわが寄ってアルミホイルのようになっている。間違いなくUFOから投射された何らかの光線の影響だ。古代核戦争だか何だか知らないがちゃんと原状回復できるのだろうか。いない物は仕方がないのでアクトクへ向かった。
アクトクのお頭の屋敷前には火星人の自転車があった。ヤツも来ているらしい。流石に今日は路上バーベキューはしていない。トラボルタと上がり込んだ。
やたら広い屋敷の謎は今日解けた。大昔は役人を泊める宿泊所をやっていたらしい。
お頭はテレビを観ながらラジオで怖い話を聴いている。器用過ぎる。こっそり近づいたら飛び上がって驚いた。我々も驚いた。お頭が変な破れ方のTシャツを着ていたからだ。
どうして…。
火星人もお頭の兄も居た。火星人は朝から来て家の前にずっと黙って座っていたらしい。勝手に椅子まで持ち出したから家に入れたそうだ。そんなことを毎朝のようにしているそうだ。怖い。
お頭兄弟は気持ち悪いだろと言って笑った。この二人も度量が広すぎるのではないだろうか。火星人にはウチに来たら警察呼ぶからと言ってあるが、こういうタイプは自分が行きたいなら迷惑がられようが来るだろう。
トラボルタは冷蔵庫からお頭兄弟にビールをとって来た。私も勧められたので突っ立っている火星人に焼酎をリクエストした。その辺に高級そうなのが乱雑に置いてある。
火星人は、ん〜焼酎ぅ?と言いながら一番高そうなのを拾い上げた。やれば出来るじゃないか。
しかし眉間に皺を寄せラベルをみたり反対にしたりしている。だめだった。やがて火星人は台所の方へ去って行った。
お頭は台所へ行くなら何か食べるものを作ってくれと言った。好きな食材を使って良いからと言っている。とりあえず運転手のトラボルタと酒を飲めない火星人以外で乾杯をした。
……。
それから一時間以上待ったが何も出てこない。まだかと聞くと作った物を冷蔵庫に入れているところですと返ってきた。味を染み込ませるとかそういう工程だろうか。さらに20分ほど経ち何か茶色いのが出て来た。冷蔵庫には入れていたようだが特に冷えてはいない。
シシの内臓だそうだ。トラボルタは不気味がって手を付けない。美味しかったので火星シェフを台所まで礼賛しに行った。火星シェフはニチャッと笑った。彼は尋常ではなくこだわりが強い。料理など一芸を極めるようなものが向いているのではないだろうか。
またかなりの時間が経ち、今度は皮を揚げて炒めたというのが出てきた。脂と油でビチャビチャだったが嚙みごたえがあって良かった。台所に礼賛に行った。トラボルタは帰りたそうにしている。
また長時間待てばメインディッシュが出るようだ。しかし良い加減トラボルタも酒を飲みたがっているし空腹だと言うので廃校へ帰る事にした。
余程嬉しかったのかトラボルタは海に突っ込んでいった。
お頭周辺で一番まともなのはビーグルだと言われているが本当にその通りだと思う。
かしこさ際立つ。
二人とも空腹は満たされないままだから校長室で鍋をする事にした。トラボルタはデイゴの集落の実家に寄って何か食材を持ってくると言っている。ついでにシャワーも浴びるそうだ。
すっかり日が暮れた。さらに今朝来た商店で肉も買う。私のいる方面の店は夕方閉まってしまうがこの集落のはかなり遅くまで開いているらしい。夜は集落の人が集まって酒盛りをしているとも聞いた。
レトロでかわいい。
ようやく学校に帰って来た。学校の海側は校庭まで海水が来ていた。暗くて気が付かなかったので足を突っ込んでしまった。校長室は私が出掛けている間に正面と側面の二面を海水に囲まれていた。
中に入りアレクサに灯りを灯させ鍋の準備にかかる。
トラボルタは肉を3パックも買ってくれたがこんな食糧難に一度に消費するのは勿体無い。一つしか入れなかった。ちくわの比率が増しちくわ鍋になったがトラボルタは浮かれていて気が付かない。
T兄ぃも呼びましょうというので連絡をしたが東の港で台風祭りだそうだ。やるべき事をやればやる事がなくなる。今日は島のあちこちで年齢性別問わず台風祭りという名の宴が開かれている。そうやって皆で祀るから余計に来るのでは…。
台風はクェシと言って返す刀の方が被害が出る。猶予期間を過ぎればここから逃げだす術は誰にもない。そこからが地獄だ。だから今はただ乾杯しよう。
トラボルタのポーズだそうである。