辺境にて

南洋幻想の涯て

肝試し

 これまでのT産業ではないH建設での伐採日雇いが始まった。クドゥムとニッシャムロ間の林道で、二年に一度しか刈らないから相当荒れているらしい。

 今回のメンバーはいつものT産業よりかなり平均年齢が若い。そしてほとんど休憩も取らず荒れた林道をがむしゃらに刈って行くのだそうだ。私を含めて総勢6名である。

 1人1回は蜂に刺されるから覚悟してくれと言われている。どれ程の荒地かと事前に下見に行っておいた。


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 デリケートな問題だから余計なことは書かないが戦争映画のような世界観を醸し出している。先発は突撃隊と自称しているし兎に角酷い目に遭いそうだ…。

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 初日、出足から早速大きなミツバチの巣が現れた。これは殺虫剤で無事に通過したが、その後も藪に隠れたアシナガバチスズメバチの巣があり、2名が計3ヶ所蜂に刺された。


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 変わった植物があったり視界が開けて海が見えたり楽しい事もある。


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 いつもながらブロワーである。これ一台しかないので最後尾から独り追いかけて行く。砂が吹き上がり何も見えなくなる。そんな中でもたくさんのアブが無尽蔵に飛んで来る。熱と二酸化炭素に引き寄せられてくるそうだ。

 ブロワーを背負っているので機敏に動けず何箇所も刺される。苛立ちが募り腰のノコギリを抜き、空いている左手に持って振り回すがなかなか当たらない。

 そんな私の隣を観光客のレンタカーが驚きの表情で過ぎて行く。ブロワーのエンジン音がうるさく車がすぐ背後に来ても気が付かない。滅多に誰も通らない道であるためなかなか背後への警戒心も続かない。

 全身砂まみれ、喉もカラカラで初日が終わる。風も吹かずあまりに暑かった。この現場中は兎に角体調管理に気をつけよう。

 

 廃校に帰ると電話が来た。山賊のお頭からだ。ユーチューバーが魚を釣ったので来んか?と言う。今日は早めに眠るべきだったが、もうじきここを去るユーチューバーさんに用事があった。マンゴーを注文してくれたお礼に、ドラゴンをプレゼントしたい。食べたことがないと言っていたからだ。

 だからそれを渡すため少しだけ参加する事にした。

 ユーチューバーさんは相変わらず魚料理が上手だ。特に皮をポン酢と小口のネギで食べたのがさっぱりと美味しかった。暑気に茹だる体に丁度良い。

 今日は夕方になってもまだまだ暑いのでお頭は上半身裸である。骨付き肉を手掴みで食べる姿は原始人そのものである。お頭の弟子の火星人は今日は来なかった。本島のクニャに宿泊しているそうだ。

 そのうちにイケメン青年のHが来た。最近ちょっと仲良くなったのでつい話し込んでしまった。仲良くなるとなんだか生意気になってきたが、まあその方が遠慮せず話せるので良い。

 

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日が暮れたがまだ蒸し暑い。

 

 この島でロケをしていたホラー映画を私が観に行くという話からまた幽霊の話になった。私は島の怪談とさらに昔からの伝承の関連性などをまるで民俗学者のように語った。一昨日ウィキペディアで読んだ。

 今夜も相当酔っているお頭が主張する。幽霊なんていない。もしいるなら今頃これまでの人類の幽霊でぎゅうぎゅうだと言う。原始人が人類に言及している。もしいたら薄く切って食べる、と遂には変な事を言い始めた。だが私も同感だ。幽霊がいないという主張に対してだ。薄く切って食べない。

 ここにいる中でHだけがある程度そう言ったものを信じている様子だった。すこし不良っぽいのに面白い。そういえば内地で仲の良かったGもヤンキーで対人無制限なのに幽霊は怖がっていた。不良系の共通ステータスなのだろうか。ちなみに理由は「殴れないため」だった。サイコキネシスで殴ればいいのに。

 そのうちに幽霊がいるかいないか見にいこうという話になった。

 行き先はHが特にやばいと言う飛び降り自殺のあった神社に決まる。鳥居の脇に下り道があり、そこに野生動物保護用のカメラがある。Hの知り合いの役場職員がその野生動物カメラに頻繁に変なものが映ると言っているのだそうだ。どうせハブ捕りをするお頭だろう。ユーチューバーさんが素面なので運転してくれた。

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 田舎の幽霊話のひとつの特徴は具体性だと思った。都市では幽霊も目撃者も「友達の友達」のような結局誰だか分からない場合が多い。だがHや島の人のそれは「誰それの弟が」のようにはっきりとしている。これが今その場と地続きの印象を与えてなかなか怖い。

 折角だから西端の旧軍廃墟まで行き、帰りに件の神社に寄る事にした。会話もままならなくなった蛮族のお頭は置いていこうとしたが、ハブ捕り棒を持ってついてきた。幽霊が出たら捕まえて3千円で売ると言う。ハブと混同しているようだ。すでに助手席に乗り込んだので置いていく手段がない。

 飛び降りのあった神社を過ぎ、首吊りのあった木を通過して山の上の西端の旧軍廃墟に着く。

 弾薬庫跡など幾つかある建物に片端から入る。Hは絶対に入らないがここはヤバいだのここは大丈夫だの言っている。小学校の頃こんな女子が居たな。

 クワガタムシの女子や動物の頭骨を見つけた。


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 高台を半周して幽霊を探したが現れてはくれなかった。建物内で誰かに名前を呼ばれる、なんてベタな展開も無かった。

 緊張感も薄れ始め、Hとユーチューバーさんは幽霊どころかハブすらいないな。といったような事を言い合いながらのんびり歩いている。相槌を打とうと振り返り、何も出ない理由を察した。当たり前だ。今夜はハブも幽霊も出られない。なぜなら

 

 

 

 

 

 

 

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 我々の背後からもっとヤバいのがついてきているからだ。

 

 

 0時過ぎまで夜遊びをしたので寝不足になり翌日の仕事はあっという間にばてた。