朝、目覚めると少し喉が痛かった。エアコンを消し忘れて眠ったためらしい。
と思っていたのだが昼にかけて喉はどんどん痛くなり、おまけに熱っぽい。久しぶりに風邪をひいたらしい。最後に風邪をひいたのが、令和の元号発表の日だったので5年近くぶりになる。関節が痛むので熱もまだ上がりそうだ。
離島の夜など酒ぐらいしか楽しみがない。色々な所へ顔を出すので心当たりだらけだ…。
水分をとって眠る事にした。と、オーシャンリゾートな宿の女主人、Rさんから、今校庭にいるので校長室を見学して良いかとLINEが来た。この宿がヒッピー系の総本山とされている。女性比率が高く女社会のようである。アマゾンの人は始めはここで寝食と引き換えに働いていた。
しかし画像検索して出てくるヒッピーと彼女達はどうも色味が違うようだ。彼女達は東南アジアやポリネシアといった服装をしている。民族系と呼ぶ人がいるがそちらの方がしっくりくるのでこれ以降は民族系と呼称する。
Rさんに、今風邪をひいているのでと断った所、ではおにぎりは要らないかと聞かれた。座っているのも辛く、食事を作る気にもならなかったので有り難くもらう事にした。
校庭に出ると、他数名の民族系の女性達と、ヒンジャ髭のYちゃんがビニールシートを敷きピクニックを楽しんでいた。おにぎり2つと味噌汁に葡萄数粒、茗荷を貰った。
疾病でそれ所では無かった為その時の写真が無い。
それらを校長室に持ち帰り食べ、夜まで眠った。これまで風邪は、食事と水分をとって眠りさえすれば直ぐに回復していた。38度程度の熱がでても二日以上風邪をひいていたことがない。兎に角1秒でも長く眠るのが最良の治療法だと信じている。
だが今回はおかしい。普段なら寝汗をたくさんかき、軽快を自覚しながら笑顔で目覚めるのだが、汗を少しもかいていない。体も少しも治っていない。それでも他に治し方を知らないので、翌日まで目覚めては水分をとり眠る事を繰り返した。
翌日は、トラボからソーキ丼を食べに行こうと誘いがあった。風邪だというと、校門直ぐの校舎に停めてあるバイクの所へ、スポーツドリンクや菓子パンを置いておいてくれた。時々軽口が過ぎるがやはり良い奴だ。
クリームパンを食べたが甘ったるく何ともおかしな味がする。とうとう新型コロナウイルスに罹患したのかもしれない。何も食べていない時でも、焦げた甘ったるい薬品のようなおかしな臭いを感じる事がある。この日も座っているだけで辛いので、このクリームパンだけしか口にしなかった。
翌日は少し回復したので島唯一の開業医に連絡をとり受診した。心配はあったがバイクには難なく乗れた。先生は民家を借りて開業している。島中何処へでも診察へ行くので予約して行かなければほぼ留守だ。かつて西の港にはそれなりの総合病院もあったのだが、採算が採れなかったのだろう。随分前に老人ホームになった。
だからこの先生がいなくなってしまえばこの離島に医者は居なくなってしまう。有難い存在だ。病気に罹っている時はいよいよ有り難い。後光が差している。
念のため検査は先生の家の庭先で行われた。しばらく検査結果を待つ。結果は陽性、新型コロナウイルスだ。これを聞いて私はホッとした。病名がはっきりした安堵と、いつか罹る罹ると不安が膨らんでいたコロナにようやく罹れた変な安堵だ。普通の風邪薬と解熱剤を処方してもらった。これから目安として五日間自宅待機だ。
この日、発症3日目はもうかなり良くなっていた。わずかに関節と喉の痛みがあったがそれだけだ。魔王にも連絡した。心配して、やはりバイクのところに弁当を2つ置いておいてくれた。本島へ行っていたようだ。
コロナに罹ったというのに私の心は弾んでいた。これから五日間大手を振って引き籠もっていられる。まずはネットスーパーで食品類を注文した。そこなら置き配してくれるからだ。コロナに罹ったという事実は、別に隠すつもりもないので直ぐに広まるだろう。だから個人商店などへ行くのは遠慮しておく。
この日の昼は病人ぶってお粥を作ってみた。もう食欲も戻ったのでお粥以外のものを食べたかったが、こんな時しか作らないだろうからネットで作り方をみて挑戦した。
出来上がった一合のお粥は美味しそうだった。鰹節で食べた。しかし何とも言えない変な味がする。どうやら味覚はまだ戻らないようだ。夜までネットやゲームをしてだらだら過ごし、夜も変な味のお粥を食べ眠る。今度は鰹節を混ぜ込み梅干しで食べた。
翌日昼、ようやくお粥が無くなった。お粥にするとたった一合の米がかなり膨らむという事がわかった。
薬は、症状がなくなれば飲まなくて良いと言われているのでやめた。置いておけば次また罹った時に飲めるだろう。
間の過ごし方は前述の通り堕落したもので、特筆する事はない。夜は妹とネットでゲームをする。最近、2人ともヘッドセットを購入したので協力プレイはより快適になった。
夜は弁当を食べたがやはりおかしな味である。体も元気で食欲が有るのに、何を食べても美味しくないというのがとても辛い。
これは翌日の夕食まで続いた。奮発して冷しゃぶにしたのだが美味しくなかった。
その翌日にはようやく味覚も戻った。お頭がお茶とコーヒーの差し入れを持ってきてくれた。わざわざ手渡しで。しかも暇なら本島へ飲みに行かないかと誘う。暇ではあったが流石に辞退した。
この辺りでそろそろ外へ遊びに行きたかったがそうもいかない。非常に退屈な療養の数日間を過ごした。
外が輝いて見える。
そして療養明けはすぐ日雇いへは行かず、リハビリとして幼ドラゴンの草抜きをした。久しぶりの外はとても楽しかった。幼ドラゴンも嬉しそうに見える。
しっかりとした根が出てきた。
少し籠っている間に気温は下がっており、島の長い夏のおまけの短い秋を感じる。蝉はうるさいが風が涼しい。
しかし繰り返しになるが、恐れていたコロナがこの程度であったので安心した。もちろん運良く軽症で済んだだけなのだろうが。これで最新の免疫も実装されただろうか。
この安堵というのは小学生の頃の集団予防接種に似ている。注射の列に並んでいる時と、終わった後だ。
そして今度は妹が熱を出した。ヘッドセット越しの会話でも伝染するようだ。さすが新型の名を冠するだけの事はある。