辺境にて

南洋幻想の涯て

グミはおやつにはいりますか?

注意:この記事には虫が登場します。

 幼ドラゴンの世話と並行して、依然林業日雇いにも励んでいる。そしていつもお腹をすかせている私は、仕事中に山野から現れる野生のお菓子を見つけ次第口に運ぶ。


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大抵の日雇いは道路の伐採。山に入って木を切る仕事は時々。

 

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 クガ。小さな原種キウイ。冬のおやつ。

 

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 ブツ貝。海水で煮よう。

 

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 ヤマモモ。甘酸っぱくて最高。

 

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 野苺。甘酸っぱくてヤマモモの次に美味しい。また低いところにあるため採取しやすい。

 

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 アースロプレウラ。育つと2mぐらいになる。逆に食べられる。

 

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 長命草。青臭くてあんまり好きでは無いが食べる。薬草。

 

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 森のクンミャト。のろまで可愛い。食べない。

 

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 名称不明。味がない。少し水を吸ったスポンジみたいな感じ。

 

 まだまだ色々なお菓子がある。一緒に日雇いをしている古老達が、昔語りと共に教えてくれる。

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 休憩中、タイヤショベルのバケットの上に寝そべってクガを齧る。まだ熟れておらず酸っぱかったので藪に投げた。おまえは何でも食べるな、と笑われる。グミは食べた事があるかとフレンドリーな幹部が聞く。お菓子のグミ?

 綺麗な砂浜の波打ちぎわには、グミ、またはグムィという生き物が住んでいるのだそうだ。

 子どもの頃、よく捕まえては火を熾し、拾った缶詰の空き缶で炒って食べたという。また持ち帰ると母親が玉子に混ぜて「グミ入り玉子焼き」を作ってくれ、それがまた美味しかったのだそうだ。

 グミ。美味しそうだ。ぜひ食べてみよう。だが子どもの時から何度となく波打ちぎわを散歩し、貝殻拾いもしてきたのにそんな生き物は見たことがない。しかし簡単に捕れると言うのだから大量にいる筈だ。今までそんな目立ちそうな生き物を見落としていたのだろうか。あるいはとても小さい?

 グミはカメムシのような甲羅を背負っておりすばしこく砂に潜るらしい。腹にうじゃうじゃと卵を抱えているほど美味だという。──グロテスクだ。

 そして脱皮を繰り返し段々大きくなる。──虫じゃないか。

 色は白色、人によってはゴキブリだのフナムシだの言って食べたがらないらしい。──虫。

 想像の中でかなり気持ちの悪い虫が完成した。少年の日の幹部が虫の詰まった玉子焼きを喜色満面、口に運んでいる。食欲がなくなってきた。

 

 昼休みは綺麗な白い浜の集落でとった。今日もガティン弁当だ。これで釣魚のストックは終わりだ。今夜あたりまた釣ろう。

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夕食のガティンは尾頭付き。弁当用は首を落とす。

 一番フレンドリーな幹部が私を呼ぶ。グミを見せてくれるのだそうだ。後に続いた。

 裂けて浸水する長靴を脱ぎ捨て裸足になる。幹部を真似て足を甲まで砂に埋める。そして海の、波の届くそのきわから足首少し上ぐらいの深さまですり足で歩く。

 こうして歩くと砂中のグミが驚いて飛び出すそうだ。逃げ出したグミは少し離れた砂にまた潜る。それを目で追っておき、砂ごと捕まえるのだそうだ。

 それらしいものどころか生き物自体が居ない。もしかしてピュアな子どもの頃にしか見えない何かではないのか。そんなもの食べて大丈夫なのか。

 1円玉ぐらいの大きさを想像して探しているがやはり何も居ない。そういえば大きさを聞いていなかった。聞くと10円玉から500円玉ぐらいだと返ってきた。

 値上がりしたグミを透明な波の下の白い砂上に求める。やはり動くものは無い。足下の砂に目を凝らす。ひっきりなしに往復する波が前へ後ろへせわしなく、しだいに平衡感覚が狂い始め、目がまわる。

 そんな我々を面白そうに眺めていたアギナの人も手伝ってくれた。彼も日雇い仲間で本島のアギナから来ている。

 これで3人がかりになった。昔はいくらでも居たのにな、とアギナの人と幹部が不思議がっている。2人とも童心に帰って楽しんでいるように見える。

 幹部が突然、居た!と言ったが逃げられた。よほど素早いらしい。私には何も見えない。まずどんな姿形かさえも分からない。

 3人は離れて並んでいる。すり足で海へ迫り、また波打ちぎわへ戻る。これを何度でも繰り返す。相手の居ない花一匁。観光客が通ればさぞ異様に映った事だろう。

 20分ほどこの奇怪な儀式を繰り返し、遂に幹部がグミを捕らえ、浜に投げ上げた。私は空の弁当箱を持って走る。

 そこには白いカブトエビのような生物が居た。拾い上げ裏から見るとゴキブリそっくりだ。食べるなんて言わなければ良かった。またオケラのように力があり、恐々掴んでいる私の指を押しのけ脱出する。

 弁当箱に海水と砂を入れてしばらく砂に潜る様子を観察した。初めはカブトエビに似ていると思ったが、私は前後逆に見ていたようだ。この虫は後ろへ後ろへと進むらしい。

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 正しい前後で見ると少しは蟹のように見えなくもない。いや、蟹に見えると思い込まなければ。折角捕まえてもらったのだから食べないわけにもいかない。蟹だ…これは蟹だ…。ひっくり返る。虫だ。食べるなんて言わなければ良かった。

 

 仕事終わり、スュリの畑に寄って幼ドラゴンに水を飲ませる。最近ずっと雨が降らない。保育作業は一時間少しかかった。それからようやくウシキャクの校長室に帰り、真っ直ぐキッチンへと赴く。弁当箱を開け、グミを取り出し、加熱した小さいスキレットに乗せる。

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 火にかけると段々と赤くなってきた。虫蟹メーターが蟹側に振れる。良い傾向だ。

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 蟹は突然、ポンっと小気味良い音を立ててはぜ、裏返り、虫になった。

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 醤油を垂らすと美味しいと聞いていたが、まずはどんな味かを知らなければいけない。味付けなしで食べよう。

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 蟹だから美味しいに違いない。とても美味しそうだ。これは美味しいものだ。怖いもの見たさでつい裏返しにする。

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 食べるなんて言わなければ良かった。

 

 だがここまで来ればもう引き返すことはできない。意を決して皿の上のものを摘み、口にいれ、噛み潰す。鼻腔を充たす海の香り、蝦の香り。口いっぱいに広がるバラバラの手足が