辺境にて

南洋幻想の涯て

薬効

 ドラゴンはとても頑丈だ。切って半年だか一年だか捨ててあったものが、土に帰るどころかそこから育ち始めた。だから捨てる時は細かく刻まなければならない。そこまですると流石に倒しきることができる。

 


f:id:Chitala:20240213143915j:image

f:id:Chitala:20240213143912j:image

この焼酎入りの肥料が好きらしい。飼い主に似ている。

 ドラゴンは認可のおりている農薬が無い。だから図らずも無農薬有機栽培になっている。そういう拘りがあるわけでは無いのだが聞こえが大変よろしい。

f:id:Chitala:20240213144151j:image

 魔王のドラゴンは某所から、決して他に渡らないようにする。という条件で売ってもらった特別なものらしい。だから上記のように捨てる時は、復活しないように気をつけなければならない。私は彼らがどんな風にレアドラゴンなのだか知らないのだが、実際1人で留守番をしている時、我々にあのドラゴンを分けて下さい!という来客があり持て余したことがあった。

 そんな謎ドラゴンから株分してもらった(うちの土地から出していないから約束は破っていない)私の幼ドラゴンも根付き、触手も生え、無事に育っていた。


f:id:Chitala:20240213144550j:image

f:id:Chitala:20240213144547j:image

 だが丈夫さにかまけて放置し過ぎてしまったようだ。天敵のティンダリ(カタツムリ)が大発生してしまった。太陽の事をティダと言うのでティンダリの語と関連がありそうな気がするが、今はそれどころではない。

 ティンダリはせっかく出てきた柔らかい芽を食べてしまう。いつみても食事か交尾か昼寝をしているティンダリたちは、旺盛に食べスクスクと育ちどんどん増えていく。雌雄同体なのだそうだ。我々にも違いなんてなければもっと平和でいられたのに。今は余計な事を考えている場合ではない。

 この間は魔王に手伝ってもらいペットボトル4本分は捕まえた。さらにはドラゴンに肥料を食べさせる時などにも捕まえる。ようやく減ってきた気はするものの根の隙間などにまだまだいる。

 だが幼ドラゴンの世話ばかりもできない。彼らとタンカン幼木と、ついでに私を食べさせていくために日銭も稼がなくてはならない。冬は仕事が少ない。今の現場は危険だから不人気の木こり仕事だ。しかし選り好みはできない。

f:id:Chitala:20240213145936j:image
f:id:Chitala:20240213145844j:image

 去年もハチグィという木にやられまた一人亡くなった。この殺人ツリーは人によっては強いアレルギーを惹き起こす。ハチグィの下に立つだけでかぶれる人も居るらしい。その亡くなった方はこの木を切っていてアナフィラキシーショックに陥ったのだそうだ。

f:id:Chitala:20240213145840j:image

 まともに立つこともままならない、崩れた急斜面の木を伐倒し落とし続け、現れた旧道で休憩をとる。かなり登ってきたので投げ落とした木々ははるか下だ。遠くに海が見える。一艘の白い船が横切っていく。

 左には次の現場が見える。ここより高く100mはありそうだ。崩れの角度も最後は垂直に近い。幹部はかわいそうに、ロープでぶら下がりながら上の方を担当だろう。

f:id:Chitala:20240213150352j:image

もはや壁。

 私はおそらくあの崖沿いに伐倒しながら這い上がり、最後に頂上でチェンソーを振り回し、倒した木々を引きずり投げ落とすのだ。枝葉が堆積してくるとどこまで地面があるのか判らなくなってくる。踏み外すと丸太やチェンソーと仲良く墜落だ。想像しただけで生きた心地がしない。

 フレンドリーな幹部も無言で次の現場を眺めている。そして「アゲェ…バードォ…」と呟いた。バードは嫌だとかそんな意味である。

 またしばらく沈黙が続く。あんなところから落ちれば死んでしまいそうだ。木と無理心中しないように気をつけよう。

 幹部はすでに違うことを考えていたらしく、「バードって鳥って意味だっけ?ローマ字で」と聞いてきた。「はい、鳥という意味です」と返答した。バードは鳥とかそんな意味である。

 

f:id:Chitala:20240213152606j:image

 

 仕事を終え山を降りる。港のスーパーで食料品を買い、離島へ帰る船を待つ。待合所にアマゾンの人が居た。それぞれの雇用先の待遇やら何やら話して時間を潰す。ティンダリに困っている話になる。そして良い事を聞いた。ティンダリは抽出後のコーヒー糟を嫌うのだそうだ。検索すると、確かにカフェインにはそうした薬効があると出た。

 アマゾンの人もそれと捕殺で、ティンダリからレタスだか白菜だかを守りきったのだそうだ。すごい。私の中でアマゾンの人の株は急上昇した。おめでとう!アマゾンの人はアマゾンの戦士に進化した!

f:id:Chitala:20240213151938j:image

帆船と行き違う。あんな船で通勤していると海賊に襲われそうだ。気がしれない。

 帰りの船中で、コーヒーを豆から淹れている人物を思い出しては連絡を入れる。抽出後の糟を捨てずに溜めておいてもらうのだ。

 畑に寄り一時間ほど働く。それからようやく廃校に帰り家事食事など済ませる。そして今日は紅茶を淹れる。私はアルコールにはまあまあ強いのにカフェインに弱い。ティンダリなのでは?だから紅茶は休日の午後早くまでしか飲まないようにしている。

 しかし今日からは6時までなら紅茶を楽しむ事にしよう。そして抽出後の茶葉を集めておきドラゴンの周りに撒くのだ。いつも一度にポット一杯、1.2L飲むので一月単位でみればそれなりに溜まっていくだろう。

 

f:id:Chitala:20240213212632j:image

 夜!妹と12時までゲームをした!ずっと倒せずにいたマリケスを倒した!カフェインガンギマリでいつもより攻撃的だったような気がする!万歳!紅茶万歳!

 そしてオフラインに帰る!いつもならその後横になるなり眠りに落ちる!しかし今夜は眠くならない!廃校を出て夜の散歩に出かけたい衝動を抑えつけ!眠る努力をする!明日からも土砂崩れの崖の上で木こりだ!危険だから睡眠は充分にとらなければならない!しかし焦るほど目が冴える!散歩に行きたい!無性に!無性に外に行きたい!つかれたら!ねれるかもしれない!