辺境にて

南洋幻想の涯て

観光協会探検隊

注意:この記事にはグロテスクな画像があります。

 魔王が断ったクエストを代わりに受けた。内容は、デイゴの集落の山道を伐採しながら旧道を山頂まで行き、ドゥッカマまで拓く、というハードそうなものだった。私の出番のようだ。

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 仕事は半日程度だそうだ。メンバーを聞いたが、ヒンジャ髭のYちゃんを除いて知らない名前ばかりだ。説明を聞いてだんだん解ってきた。どうやら観光業界の人たちの、半ばレクリエーションのようなものらしい。ハードな開拓だと思ったのに鎌だけで充分だと言われた。

 魔王はついに素泊まり宿も始め、また雨の日に作った土産物も海の駅に置いてもらっている。だから観光協会とは繋がりがある。それで誘われたのだろう。私の出る幕ではなかった。

 しかし向こうも息子のほうなら要らないとは言えなかったのだろうか。採用になった。…気まずい。

 

 当日、指定の場所である、デイゴ並木脇の広場で待機する。観光ガイドの人たちはこれまで私と関わりのなかったグループだから、第一印象が大切だ。指定の時間より20分早くに来ておいた。

 しばらく海を眺めていると何となくそれらしい人たちが現れた。そして私の腰の鎌を見て声をかけてきた。

 時々ウスェなどで見かける観光ガイドだ。それから散発的にメンバーが集まり10名少々になった。雰囲気や言葉から、大半は移住者たちのようだ。なんだかアウェーだ。帰りたい。

 そんな中自己紹介が始まった。観光協会の人々、学者さんたち。少し警戒心が和らいだ。彼らは自然や植物に詳しいだけのごく普通の人たちのようだった。内地の先進的で崇高なありがたい活動を啓蒙しに天孫降臨して来たいつもの連中ではないらしい。さらに面白そうな山道具を持っている人もいる。興味深い。

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鎌みたいなもの。軽い力でよく切れる。

 私は、魔王とは反対に島人の側に入れ込みすぎているようで、移住者を色眼鏡で見る悪癖がある。地縁も無いのにこんな不便な島に来るのだから変人か脛に傷か(他人の事は言えない)、ご立派な啓蒙活動か、いずれにせよ、大なり小なりなんらかの逃避だと決めつけていた。だがそういうのは良くない。

 それに逃避は健全な反応で否定すべきでないと最近は思うようになった。誰も逃げなければ世の中はもっと血みどろになる。

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最近フレンドリーな幹部がチェンソーを持ったまま穴に落ち、血みどろになった。腕にお尻の皮を移植した。入院中。

 山へ向けて出発する。目的は、旧道を見つけ、それが観光資源になりうるか調査すること。私とヒンジャ髭のYちゃんの仕事は皆が通れるように邪魔な木や枝を切り、棄てられた旧道を再び拓くこと。


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 リーダーらしき人物が2人いる。観光案内人の女性と地域の老年男性だ。老年男性は農業をしているそうだ。魔王の事も私の事も知っていた。

 初めはヒンジャ髭のYちゃんと先頭を歩いていたが、隊の後ろの方、学者の一団がどんどん離れていく。だから私は後ろに回った。この後ろというのが特に植物愛好家の一団のようで、すぐにしゃがみ込んで草の写真を撮ったり、観察して種名を同定しようと会議が始まったりする。


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「学者隊」とダムの跡(?)を越える。

 その間にも、やはりこちらもマイペースな観光協会の先頭隊がどんどん進んで行く。離れ離れになりすぎてお互いを探し始めるような事になれば困るので、前に行っては「後ろがちょっと遅れていますよ」と言い、後ろへ行っては「少しペースを上げて追いついた方が良いかも」と言い分解を回避するべく頑張った。

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 だが私以外誰一人そんな事は気にしていないようだった。先頭観光隊は道を探して容赦なく進んでいき、ついに後ろから見えなくなる。

 さらに先頭観光隊は何故か二手に別れてしまい、後続学者隊をどちらへ連れて行くべきかわからなくなった。

 呼んでみるも返事まで聞こえなくなったので、学者隊に一時待機してもらい、どうするか聞きに行くという場面もあった。

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 集合のため一旦休憩をした。私は、前を歩いて藪を払ってくれないと、と言われたので一番先頭に戻る事にした。学者隊の誰かから「みんながはぐれないように、付いててくれたんだよね」と援護があった。

 それからは後ろが逸れ過ぎないよう何度も振り返り進んだ。牧羊犬になった気持ちだ。ところで後ろの学者隊といる時、食用になるキノコを教えて貰った。そういうツアーをしてくれれば良いのに。


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ウスヒラタケ。教わった通りに豚肉と塩胡椒で炒めたら絶品だった。ご飯をお代わりした。

 最先頭の我々のすぐ後ろで、隊長2名は道をはっきり思い出せないようだ。旧軍の貯水槽や陸軍のマークの入った盃などが落ちていたので今進んでいるのは軍道跡らしい。少し休憩になった。

 状態の良い盃を見つけ拾い上げる。観光隊の1人が詳しいらしく、欲しがったので渡した。どうやら価値のある物らしい。返してとも言えないのでもう一つ探したが割れたものばかりだ。

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 隊は再出発し、山中をさらに進む。

 

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 やがて海の見える崖に行き当たった。以前妹と来たライオン岩の裏にあたるそうだ。


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ライオン岩。ちなみにこの間、妹が狭間の地でもライオン岩を発見した。2人で記念写真を撮った。

 目的の旧道は行き過ぎらしいとのことで来た道を引き返す。左手に見える山を上る道があった筈なのだが…と言うので私が一人偵察に出た。涸れ沢を上る。そして藪の中を頂上に向けて走ると道の跡を発見した。下を歩いている探検隊に道発見を知らせに戻る。一方、隊では「道を探しに行きます」「よろしく」と別れた筈なのに私が迷子扱いになりちょっと探されていた。何故。

 少しづつ上に移動して来ていた探検隊に、こっちに道がありますよと声をかけた。隊に繋がる道を探し、ついに薮を隔てて数メートルまで迫った。彼我の間の薮を切り払う。向こうからもヒンジャ髭のYちゃんが開拓し、ついに道は繋がった。

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 そこからは迷うような道もなく進むことができた。しかし探していたのは、海を眼下に眺めながら歩く道だったそうで、今回発見したものではないそうだ。大日本何ちゃらと刻印のあるビール瓶があったのでそれを拾った。右手に鎌、左手にビール瓶という蜂起したシトワイヤンのようなよくわからないスタイルで山を行く。

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 そして最後はデイゴの集落の、まさにデイゴ並木に繋がった。そこは行き止まりだと思っていたのだが山へ行く道があったのだ。山から人間の一団が出てきたので集落の人が珍しがり話しかけてくる。

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 デイゴ並木を抜け、朝の集合場所まで戻る。隊長から解散の挨拶がある。「道、見つかりませんでしたねぇ」と残念な顔をしてみせ、バイクにまたがって廃校へ戻る。その帰路でつい笑顔になる。

 観光資源は見つからなかったが、山中のあちこちに価値のありそうな旧軍の遺物が捨ててある事を知った。ああ、そういえば以前、遺物はスュリの山中にもあり、藪の中でただのゴミとして眠っていると、魔王から聞いた事もあったな。

 その時は、それよりキノコは?としか思わなかったのだが、今日はそれらが愛好家に売れると、当の愛好家から教えてもらった。これは良い事を聞いた。


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 まだまだ山には何か掘り出し物があるに違いない。今度は私が探検隊を組織して宝探しへ行こう。

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