辺境にて

南洋幻想の涯て

午睡のある風景

 この南の島はもう梅雨に入った。そして梅雨入りのつい数日前から、林業社長の下で日雇いの現場は始まっている。今回は草刈りだ。社長は普段よりかなりの人数を集めて来た。

 梅雨入りまでの数日間と、あとは梅雨の中の限られた晴れの日を狙った短期決戦。おそらく林業社長はそう目論んでいるのだろう。工区はアンキャバ戦跡からセソの港までおよそ20kmの長い道のりだ。

 本島側の有名人「イスラム自転車の人」も来ているそうだが、顔をはっきりと知らないのでどの人物がそれかは判らない。彼は本島の港町から東に向かえば大抵は見る事ができる。

 「イスラム」と前後に手書きの大きな看板をつけた自転車を目立つように停めて付近を掃除している。イスラムと書かれた看板には、権利を認めろだの排斥せよだのは一切書かれていないので何を主張しているのかはわからない。勧誘もしていない。何も判らない。

 そういう活動家の方にまで声をかけたので今回は総勢16名も居て、二班に別れている。因みに普段は4から10名程だ。

 重機の巧みな幹部率いる先行隊は、粗刈りで硬めの草木を大まかに刈り、重機でまとめて片付ける。社長率いる後続隊は、ナイロンで残った草を綺麗に刈り上げ、最後に背負式ブロワーで刈り草や砂を吹き飛ばし、総仕上げをする。

 今回は心なしか一単位の距離が長く、次の休憩までに必ず一度は燃料が切れる。


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弁当はその時の到達地点付近で摂り、その場で昼寝もする。景色の良い場所も多く癒される。だがダニに噛まれる日もある。ゴスに目覚めたということにしてダニ取り首輪でも着けようか。

 

 私は後続隊の一番後ろ、背負式ブロワーを担当している。寡黙な幹部と二人で総仕上げをしながらついて行くそれなりに重要な役目だ。

 10kg以上有るそれを1日背負って上下左右に歩き回る。いや、前後左右だった。1週間も働けば、負荷の集中する左肩が取れそうになる。もういっそ取れてしまえばブロワーのアームと付け替えるのに。

 先行部隊には私のもう一人の親方「山賊のお頭」が居る。

 お頭に雇われていた時林業社長の仕事は受けないのですか?と尋ねた事がある。お頭は苦笑いをしながら「昔色々あったワケよ」と言った。林業社長とお頭、人斬りの逸話のある者同士何か事件が有ったのだろう。だからお互い顔を合わせない様にしているのだ。

 と思っていたのだが何故か先行隊に居る。あの思わせぶりな遠い目は何だったのか。

 ただし先行隊と後続隊とで一日会わないほどの距離を取っているのと、直接会話をしているのも見ないのでまだまだ私の空想の為の余地は残されている。

 

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 梅雨入り直前のある日。デイゴ並木の行き止まりで休憩をとった。

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 今日も弁当は高級ねこまんまである。そして社長の近くに座る。するとどうだろう。

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 何とおかずが増えた。シャケとウツボだ。狙って社長付近に座っている事は気取られてはならない。

 そして一羽の鴉が私の隣に降りて来たのでおかずを分かち合った。シャケやウツボから投げた小骨は蟻が運んで行く。ヒエラルキー構造である。


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今日の昼寝場所も最高だ。ただし食わず芋の大きな葉が風で擦れるたび、人の動く音と勘違いして目が覚めるのでそれは良くなかった。

 

 お頭がこっちに来た。今夜魚を突きに行くけどお前も来んか。と誘う。夜の海は不気味だから入りたく無いです、と答えると舟から見ているだけで良いと言う。行く事にした。

 

 一旦帰宅し夜19時、アクトクのお頭の屋敷に集合だ。