辺境にて

南洋幻想の涯て

真夏のひとひ 上

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仕事中に小さな灯台を発見した。

 滝の集落のMさん、トラボルタと夜釣りに行く。自分だけ何故か釣れない。道具のせいにして竿を交換してもらったがやはり釣れない。場所のせいにして代わってもらったがそれでも釣れない。やる気を失くして桟橋に寝転がる。遠くから風に乗って、子どもの笑い声が聞こえる。盆だから親戚でも集まっているのだろう。

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 自分だけ釣れないのを先生の教え方が悪いとなじり続けた。結果、釣りのトラボルタ先生はヤケクソで投げのタマン釣り用ビーズをつけやがった。ただの異物だ。ガティンなんか怖がって逃げるに決まっている。

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 当てつけで投げて動かしてみる。この比重の違う玉とマヌケなアヒルみたいな選手が、海中でヘディング練習をしまくるという面白過ぎる動きを発見し、トラボルタ先生を呼び実演した。

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 2人で笑っていると、偶然近くを通りがかったガティンが1匹だけ釣れた。

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 新次元の釣りを開拓したと思い、その後も一人、ガティンの近くに落としてはヘディングをした。しかしあれは奇跡だったようで2度と魚が見向きする事はなかった。

 飽きた私は、この間の探検の続きに行こうと提案した。だが2人は釣れていて面白いらしく相手にしてくれない。結局最後までこの桟橋で釣りをし、私以外は5、6匹ほど釣った。

 私は未練がましく海中でヘディング練習をしたが、自然界にこんな生物はいなかったらしく、魚は急加速して逃げるばかりだった。

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まあどうせ分けてもらえるけど。

 

 翌日、今日は8月11日。集落作業だ。また対岸のクニャで港祭りも催される。行ってみたいが海を行き来するのはとても面倒だ。行くか行くまいか迷う。とりあえず集落作業をしながら考えよう。

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トラボルタの集落にはモンスターが襲来した。

 お盆前だから今日の作業は墓へ行く道の草刈りだ。住民内の伐木のベテランT兄ぃは、墓の大木を切るのを区長から頼まれた。私はその特別任務を手伝い、伐木の心構えなどを教わった。先日、首都ナディでチェンソー講習を受けてきたが、それは安全についてが主であり、技術はこれから仕事の中で身に付けていかなければならない。

 

 …結局祭り見物は今年もやめにした。本島では常に帰りの船の時間を考えて行動しなければならないので、泊まりでもなければ楽しめない。

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山賊のお頭(着ぐるみ)アマゾンの人は祭りに参加した。お頭のキャラクターを周知するためパレードに出ていたそうだ。中身を知られてはいけない…絶対に…。

 

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 昼は最近時々行く、元競輪選手のカレー屋さんに行った。ここでは揚げたてカツカレーが食べられる。一人暮らしをしていると揚げ物なんて滅多にしない。面倒くさい。さらに悪くすると、なぜか揚げている間に腹が膨れてくる。

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 店主はものすごく商売をする気がなく面白い。ご飯冷凍だけど良い?なんて聞いてくる。この離島へは半分休養のつもりで来ているのだそうだ。そんなだからいつ来ても私一人しかいない。いつも店主と二、三十分雑談して帰る。私を憶えてくれたのは3度目にしてやっとだった。

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この幟が出ている時はやっている。多分土日。

 店内の雑貨が素敵なので褒めたら、この店を作った人が置いたか何か言っていた。全然興味がないそうだ。でもカレーには丸ごとのマッシュルームも入っており嬉しい。私はナバ(キノコ)が好きだ。

 

 それから廃校に帰り、心地良い疲労に包まれて夕方まで眠った。泳ぎ疲れだ。プールの授業が終わって給食を食べた後の授業中のあの幸せな感じ。

 

  夕方、区長からの電話で目が覚めた。今年も桟橋から対岸のクニャの花火を観るからおいで、との内容だった。焼酎の紙パックを持って廃校を出る。5時間弱は昼寝をしていた。もう日暮れ間近だ。

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 去年と同じように桟橋に敷かれた茣蓙(ござ)に座ってK子姉ぇの料理を食べる。K子姉ぇは区長の妹で料理が上手い。しかも伝統的なものを作ってくれる。毎年盆の後にも余ったカシキャやクイニャを食べさせてくれる。

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 盆といえば隣のサジョウホ集落のN製糖が呉れるリュプも楽しみだ。この同シーズンに口に入る3種はそれぞれ無関係な食べ物だが、直方体であるという偶然の共通点がある。カシキャ、リュプ、クイニャの順に好きだ。

 さて今年も山陰で見えない花火を鑑賞する。みんな見えない事がわかっていて集まっているので偶然頭の先、もし花火に顔があるなら、デコが見えただけでも歓声が上がる。

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デコルテまで見えればいいのに。

 数発は、必ず岬の山より高く上がり完全に観える。もうそれだけで充分だ。日本で二番目に貧乏な自治体を記録した我らがS町にしては頑張っている方だろう。ちなみに首位は確か青森のどこかである。

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 我らがS町はどんどん相撲取りを採用するので、役場はダミー企業で、本体は日本相撲協会の下部組織だと揶揄されている。武力だけは日本有数かも知れない。

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 町長も力士、私の農業を見てくれる農林課係長も力士、私が廃校に住むのを担当する教育委員会の力士も相撲取りと、私一人が関わっているだけでもこれだけいる。町の広報を読むと、相撲大会で優勝(S町職員)なんてのをよく見かける。もしかして日本中の各町職員を倒して賞金を得ていく巡業の方が裕福になるのでは…。

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 そして役場が武闘派なら町民も武闘派である。この桟橋花火の折には必ずK子姉ぇの武勇伝が持ち上がる。ある年、自衛隊が町の海峡に煌々と灯りを灯して停泊していた。K子姉ぇは「花火が見えらんからあんたたち灯りを消しなさい!」と駐屯地か防衛省だかに電話をしたそうだ。そして花火が上がる時、護衛艦隊の灯りが一斉に消え、綺麗な花火が観られたらしい。

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 自衛官達も真っ暗な艦内では何も出来なかっただろうから、皆んなで甲板にでも出て花火を見上げたのではないだろうか。きっと遠い故郷の花火大会なんかを思い出した事だろう。

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 予算の少ない花火があっという間に終わったので、公民館に河岸を移す。一人帰り二人帰り、最後は男衆だけでさらに飲んだ。確か日付が変わるぐらいで帰ったと思うが、よく憶えていない。

 

 ところで、桟橋で花火の始まる寸前、みんなで不思議なものを目撃した。ウシキャク桟橋からクニャを見て左。特攻艇の有るヌンミュラ方面の山に赤い光が無音で落ちた。私は背を向けて座っていたので、対面の集落民たちが騒ぐので振り返って、初めて気がついた。だから見たのはたった2秒ほどだった。

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緑の矢印が花火の上がる方角、黄色い矢印が謎の光の見えた方角。

 その時対岸のクニャの祭りに参加していたM社長も、みんな今の見た?とグループラインに書いていた。飛んで行った方角も書かれていたので、私はもっと目撃情報を収集して墜落地点を調査しようと決心した。とりあえずはグループラインで目撃情報収集をお願いしておく。

 夜話は続く。

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