台風:発達した熱帯低気圧。自然の恐ろしさを忘れた事のない島民達に自然の恐ろしさを思い出させるため頻繁に来る。
台風は一旦南側を通り過ぎた。しかし予想によるとまたこっちに跳ね返ってくるらしい。しかも直撃ルートで。
今はこう。
それがこう。
過ぎてから跳ね返ってくるまで数日の猶予がある。その間にしっかりと備えをしておかなければならない。
台風6号はマーゴンと言う名前らしい。マンゴーに似ている。もしかしてハウスに囚われているマンゴーを助けにきたのだろうか。名前が似ているに過ぎないと誰か教えてやってほしい。
教えていただいてありがとうございました。台風の名前はカーヌンでした。
スュリの農地に何かあってもすぐには駆けつけられない。魔王の目の届かないようスュリからわざと離れた廃校に住んでいるからだ。この距離が親子間の心の距離でもある。
ビニールハウスの台風対策はSちゃん達の助力もあり一昨日済んだ。その夜は特に風が強かった。一夜明けた翌日は農地に行かなくて良いと言うのでとりあえず洗濯をした。洗濯機は屋外にある。辺りに置いてあった物が風で散乱している。
もちろん洗濯物は室内に干した。
まさか一旦過ぎた台風が戻ってくるとは思っても見なかった。予想の倍の期間は籠城しなければならない。このままでは食糧が尽きる。冷蔵庫が小さいのでいつも数日分の食べ物しか入っていないのだ。ついでに酒もない。買い出しに出かけることにした。
枯れ木が倒れている。
この次はいつツーリングに出かけられるか判らないのでわざと遠いデイゴの集落の商店へ向かった。
昨夜の風と波でゴミや砂が打ち上がっているが今は穏やかだ。デイゴの集落の売店で焼酎と保存食を買う。他の人のことも考え買い占めるような事はしないでおいた。
廃校へ帰った。廃校の此岸と本島の彼岸の間にたくさんの船が避泊していて壮観だ。夜になると対岸の港町の灯りに船舶の灯りも加わり、いつもより僅かに豪華な夜景を観ることができる。
白米だけはあるのでこれで一日一食に抑えればしのげる。ポーク缶は二つ買ったが、いつものお礼にSちゃんに一つあげた。
朝と昼は食べない。空腹だと寝付けないので夕食のみ食べる事にする。いろいろな来客が置いて行ったお菓子があるので日中はこれで空腹を誤魔化そう。
早速一番食事代わりになりそうなポテトチップスから開けてしまった。PS4の電源を入れ焼酎を傍に置く。後は大人しく引きこもっていよう。
前回苦戦した巨人ヨームを今日はあっさり倒した。思わず立ち上がってガッツポーズをした。余計なカロリーを消費してしまった。暇人トラボルタからラインが来た。台風祭りをしましょうとある。
そうだ。もう備えはやるだけやったのだ。折角日雇いも畑も休みなのだから今日を楽しもう。トラボルタと遊ぶ事にした。
やがてやって来たトラボルタが、酒を飲む前にドライブに行きましょうと言う。トラボルタのおばが私の父のファンで、私の事も是非見てみたいと言うのだそうだ。何か食べ物も出るに違いない。了承した。
先ほどの巨人戦で既に一口飲んでしまっているので運転はトラボルタに任せた。手ぶらと言うのも何だから冷蔵庫からドラゴンを出した。
四つに切って一日一切づつ食べビタミン類を補給しようと思っていた物だ。廃校を出る。
さらば夜見ると怖いオブジェ。
そのおばというのは居酒屋をやっていたそうだ。これはとても美味しいものが出るに違いない。車は西の港の方へ走る。
共にドライブを楽しむドラゴンちゃん。どう置いてもトラボルタの方を向く。若い兄ちゃんが良いらしい。
ここでも集まって台風祭りをしてますよ。途中の集落の公民館前を通る時、トラボルタはそう言った。不謹慎に映るかもしれないが、私は肯定的に捉えた。
この後永く大変な復旧作業が待っていて、それは基本的に自分たちでやるしかない。怪我人だって出ているかもしれない。だからせめて今だけでも楽しむのだ。嘆きながら過ごしても騒いで過ごしても被害は同じなのだから。
やがてトラボルタのおばの家に着いた。ドラゴンを差し出す私にビールが出た。私の目と声が若い頃の父に似ているそうだ。そしてかつての父はシャイで一人黙っていたらしい。
トラボルタめ、本当に急に思いついて連れて来たようだ。食べ物は特に出なかった。だがまあ当然だ。こんな時に男二人に食事に来られても困るだろう。しかも片方は初対面で左手に焼酎、右手に奇怪な果物を持っている訳のわからないやつだ。家にあげてもらえただけでも奇跡だろう。しばらく歓談しおば宅は後にした。
おば宅は少し高いところにあり足下に西の港と家々が見える。
トラボルタは次に山賊のお頭の家に行きましょうと言った。あそこなら常に肉が有りますと言う。その通りだ、そうしよう。
火星人も誘いましょうと言って車は火星人の住むヌミシャンの方へ向かった。私は最近火星人が性的な事ばかり言うので気持ち悪く感じられて来た。だから反対した。しかし大丈夫ですからと言う。何がどう大丈夫なのか。