辺境にて

南洋幻想の涯て

夢の跡

 いろいろな所で見かけるレンガを拾っては持ち帰る。バーベキュー台を作るのだ。魔王にも見かけたら拾って、と頼むと滝の集落にたくさん棄ててあると教えて貰った。

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まだこれだけ。

 そのレンガは以前居た移住者の置き土産らしい。海水から塩を作っていたそうだ。そして移住者が島を去る時、魔王は残ったレンガを貰う約束をした。それがもう数年そのままなのだそうだ。

 移住失敗は気の毒だが、それはそれとして、こうした彼らの夢の残骸はとても重要な遺産だ。大切な資材だ。


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夢の残骸は色々なものに生まれ変わる事ができる。庭用の机もついに完成した。

 場所がわからないので連れて行ってもらった。窯のあったという場所はもうジャングルになっていた。そしてセメントや苔の付いたレンガがたくさん落ちている。


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 窯の残骸にしては少なすぎるので、綺麗なものが持ち去られた残りだろう。

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 廃校に運び積み上げる。今は崩れ去ったドラム缶に付いていた金属棒を横に渡す。このドラム缶セットもいつか来て去った移住者の遺産だ。ケバブか何かを焼くものだったらしい。辺境の自然は何でもあっという間に飲み込んでしまう。塩窯、ドラム缶、校舎、それから夢。

 家庭科室にチップソーが棄ててあったのを思い出し拾いに行く。この部屋には校長室の前住人がそのままにして行った醤油タンクが並んでいる。

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 魚醤を作って売ろうとしたが失敗したのだそうだ。晴れているのにポタポタと水滴が落ちてくる。天井裏に水溜りが出来ているのだろう。崩れるのも時間の問題だ。

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 錆びたチップソーを3枚拾い、横に渡したケバブ棒の上に載せる。ここに炭を置くのだ。こうして「朝礼台」の横にバーベキュー台が完成した。

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朝礼台とはウッドデッキの事である。朝礼台の階段が付いているのでそう呼んでいる。

 

 

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 魔王は年末ごろから釣り船を探している。セリガチに置いておいて船釣りをするのだ。しかし週七日働く魔王がいつ釣りなどするのだろうか。疑問である。


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魔王とのボート探しの日々。

 船は要らなくなったものがよく藪などに棄てられている。皆気前よく呉れるとは言うのだが、実際に見てみると放置され年月の経ったそれらはあまり綺麗なものではない。雨水が溜まり長い年月が経ち、そこに小さな生態系がめばえている物さえある。魔王は意に介さずひっくり返す。魔王の名に恥じぬ所業である。

 そうして気長に探していた魔王だが、ついにウセの人から船を貰った。一人で引きずるには少し大きすぎるが黄色くてかわいい船である。

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 そのままで良いと思うのだが魔王がペンキを塗ると言い出した。言い出したら聞かないので仕方なく指定の色を塗る。最近はトランプの兵隊みたいに塗装ばかりしている。小屋ももう4棟塗った。


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 チェンソーでの怪我以降は働きに出ず農業や家の手伝いをしている。そろそろ現金を得られる仕事をしないとまずい。だが、社長が最後に受けた仕事をするかもしれない、と幹部が言うので私は新しいバイトを探さずずっと待っている。その仕事を以って社長へのはなむけにしようと思う。返事はまだ無い。

 魔王はボートの上を青、下を白に塗り分けろと私に命じてトラクターで去った。青が無くて水色を塗った。白ペンキは苦労して開けるとほぼ固まっていた。水を足して棒で混ぜてみたが塊が小さくなるだけで混ざらない。白なのでヨーグルトみたいだ。

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 中止を期待し魔王にその旨を伝えたが、緑のペンキに変更になっただけだった。緑に塗るとヌンミュラの赤い海に置いてある特攻艇にそっくりだ。

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ヌンミュラの特攻艇。

 今更ローラーを与えられた。刷毛の数倍効率が良い。小屋の時もこれを貸してくれれば良かったのに。特攻艇が完成していく。


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 お頭から電話がきた。私が脚を切ったのを知って心配してくれたのだ。ドライな人物だと思っていたが案外優しい。仕事の誘いもあったがもう山仕事は魔王がさせないだろう。私も一瞬は懲りたのだがやはり山や森に入るのは楽しい。林業は私に合っていたようだ。だが魔王は次はサトウキビのアルバイトをさせたがっている。

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ローラーはとても塗りやす…あっこれは特攻艇だ。

 前述の通り魔王は休むのが嫌いだ。私も週に一度あるかないかの休みに体力を使うような事はしたくない。廃校に引きこもっていたい。

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魔王は緑が好きで、軽トラも緑なら屋敷の屋根も小屋の壁も緑である。因みに私はモノトーンが好きだ。

 だからこの特攻艇はあまり出撃の機会のないまま終戦を迎えるのでは。いや、魔王宿のお客さんに貸すという使い方もあるな。などと色々考えているうちに塗り終わった。

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綺麗に仕上がった。まあ近々一度ぐらいは仕事をせず釣りに出るだろう。楽しみである。